透析とは?透析や移植を考えましょうと言われたら
腎不全の治療は、これからの生活を支える大切な治療です。医療スタッフやご家族と相談しながら一緒に自分に合った治療について考えましょう。
透析や移植を考えましょうと言われたら
「透析治療によって日常生活はどのように変わってしまうのか?」
透析が必要と言われた時、8割を超える患者さんが生活の変化に不安を持っていたという調査結果があります。さらに、今まで通り仕事や家事を続けられるのか、食事制限はどのように変わるのか、体調がどう変化するのかなど、多くの不安が挙げられています。(1)
腎不全の治療は、患者さんのこれからの生活を支える大切な治療ですが、様々な不安の中で、病気や治療のことを理解して、自分ひとりで治療を決めることは、決して容易ではありません。そこで、患者さん・ご家族と医療スタッフとがチームとなって一緒に最善と思われる治療法を選ぶ「共同意思決定」(Shared Decision Makingシェアード・ディシジョン・メイキング)と呼ばれる方法があります。医療スタッフは患者さんに病気や治療法についての情報を伝え、患者さんやご家族は医療スタッフに生活環境や好み、大切にしていることなどの気持ちを伝えることで、一緒に自分に合った治療をみつけていくという考え方です。(2)
治療について知りたいこと、不安なこと、日々の暮らしの中で楽しみにしていること、続けたいこと、大切なこと、思いや状況は、一人一人異なります。また、治療を選ぶ理由もひとそれぞれです。
自分に合った治療を見つけるために、患者さん一人で悩むのではなく、ご家族や医療スタッフに自分の思いや希望、状況を伝えて相談してみましょう。
(1) NPO法人腎臓サポート協会 2019年 会員アンケートより
(2) 参考:腎臓病SDM推進協会
腎不全の治療 ~自分に合った治療法を見つけるために~
腎不全の治療について動画でご紹介しています。これからの治療を考える際の参考になさってください。
腎不全の治療 ~自分に合った治療法を見つけるために~ (約18分)
(監修:腎臓病SDM推進協会) JP-00080-V2
チャプターごとに
ご覧いただく場合はこちら
腎代替療法には、大きくわけて「透析療法」と「腎移植」があります。
「透析療法」は、血液から腎臓がろ過できなくなった老廃物や余分な水分を除去する治療で、腎臓の働きのうち、体の水分量やミネラルの調節、老廃物の排泄を補うことができます。主に医療機関に通って行う「通院透析(血液透析)」と「おうち透析(腹膜透析・在宅血液透析)」があります。
また、この二つを組み合わせた「併用療法」も行われています。
腎移植は、腎臓のほぼすべての機能を補うことができる治療です。
なお、一度始めた治療でも、病状や生活環境の変化に応じて、治療法を変更することが可能です。
当サイトでは、腎不全の治療の選択肢について説明しています。医療スタッフやご家族に相談する際の参考にしてください。
腎代替療法の選択肢

透析療法の種類とそれぞれの特徴
人工透析は、腎臓の機能が著しく低下した際に、その働きを人工的に代替する治療法です。
現在、主に「血液透析(Hemodialysis: HD)」と「腹膜透析(Peritoneal Dialysis: PD)」の2種類があります。
これらの治療法は、体内の老廃物や余分な水分を除去するという目的は同じですが、その仕組み、治療を行う場所、頻度、そして患者さんの日常生活への影響が大きく異なります。
ここでは、それぞれの治療法について詳しく見ていきましょう。
血液透析(Hemodialysis: HD)
血液透析は、日本で最も広く行われている人工透析の方法です。
体外に血液を取り出し、特殊な装置を通して血液を浄化し、再び体内に戻すというプロセスを繰り返します。
この治療は、腎臓のろ過機能を機械が代行する「人工腎臓」とも呼ばれます。
血液透析の仕組みと原理
血液透析の仕組みは、主に「拡散」と「限外濾過」という二つの原理に基づいています。
まず、患者さんの血液を体外に取り出し、ダイアライザーと呼ばれる人工膜に通します。
ダイアライザーの中には、半透膜という特殊な膜で仕切られた空間があり、片側には患者さんの血液が、もう片側には透析液が流れています。
透析液は、体に必要な成分は含み、老廃物は含まないように調整された液体です。
拡散(Diffusion):血液中の老廃物(尿素、クレアチニン、尿酸など)や過剰な電解質(カリウム、リンなど)は、濃度が高い血液側から、濃度が低い透析液側へと半透膜を介して移動します。これは、物質が均一に分散しようとする性質を利用したものです。
限外濾過(Ultrafiltration):体内に蓄積した余分な水分は、血液側に圧力をかけ、透析液側を陰圧にすることで、半透膜を介して透析液側へと押し出されます。
この二つの原理によって、血液中の不要な物質が除去され、体に必要な成分は保持されることで、血液が浄化されます。
浄化された血液は、再び患者さんの体内に戻されます。
血液透析の治療の頻度と時間
血液透析は、一般的に週に2回から3回、1回あたり3~5時間の時間を要します。この治療は、通常、透析施設に通院して行われます。患者さんは、決められた曜日と時間に透析施設を訪れ、治療を受けます。
治療中は、ベッドに横になり、医療スタッフの管理のもとで透析が行われます。この通院の頻度と時間は、患者さんの日常生活に影響を与える要素のひとつとなります。
血液透析のメリット
血液透析のメリットの一つは、医療機関で専門の医療スタッフ(医師、看護師、臨床工学技士など)の管理のもとで治療を受けられる点です。これにより、治療中の合併症や体調の変化に迅速に対応することが可能です。
また、透析効率が高く、短時間で効率的に老廃物や水分を除去できるため、体調の安定につながりやすいという利点もあります。
血液透析のデメリット
一方で、血液透析にはいくつかのデメリットも存在します。デメリットのひとつは、週に複数回、透析施設に通院する必要があるため、時間的な拘束が大きいことです。
これにより、仕事や学業、社会活動などに制限が生じる場合があります。
さらに、治療の特性上、食事や水分に対する制限が比較的厳しく、特に水分制限は患者さんにとって負担となることがあります。
| 血液透析のメリット | 血液透析のデメリット |
|---|---|
|
|
血液透析(HD)患者さんの生活例をみてみましょう
血液透析(HD)では、月・水・金 または 火・木・土の週3日医療機関に通って治療を受けます。
治療にかかる時間は3~5時間程度ですが、通院にかかる時間、着替えや血圧・体重測定など治療開始までの準備、治療終了後の着替えや休息などの時間もかかるため、透析日は透析を中心とした生活となります。
血液透析(HD)には、午後や夕方から透析を始めるパターンもあり、職場と就労時間などを相談して、透析治療に必要な時間を確保しながら仕事を続けている方もいらっしゃいます。また、夜寝ている間に医療機関で行う「オーバーナイト透析」や自宅で患者さん自身が行う「在宅血液透析」という方法もあります。
療法選択する際は、透析を始めた後の生活をイメージしながら、通院にかかる時間や送迎の必要性、透析のスケジュールなどを考えて、血液透析治療を受ける医療機関について主治医と相談しましょう。
おうち透析(腹膜透析)(Peritoneal Dialysis: PD)
おうち透析(腹膜透析)は、患者さん自身の体の一部である「腹膜」を利用して血液を浄化する透析方法です。
自宅や職場など、医療機関以外の場所で治療を行うことができるため、これまでの生活スタイルを保ちやすい治療と言われています。
腹膜透析の仕組みと原理
腹膜透析では、まずお腹の中に「腹膜透析カテーテル」と呼ばれる細い管を埋め込む手術を行います。このカテーテルを通して、透析液を腹腔(お腹の中の空間)に注入します。
腹腔の内側を覆っている腹膜には、非常に多くの毛細血管が張り巡らされており、この腹膜が半透膜として機能します。
腹腔内に注入された透析液は、一定時間(数時間)貯留されます。
この間に、血液中の老廃物(尿素、クレアチニンなど)や余分な水分、電解質(カリウム、リンなど)が、腹膜の毛細血管から透析液へと移動します。
これは、血液透析と同様に「拡散」と「浸透(限外濾過)」の原理に基づいています。透析液中にブドウ糖などの成分があることにより、「拡散」と「浸透」の原理で余分な水分が除去されます。
十分な時間が経過した後、老廃物や水分を含んだ透析液は、再びカテーテルを通して体外に排出されます。
この一連の作業を繰り返すことで、血液が浄化されます。
CAPD(連続携行式腹膜透析)
CAPD(Continuous Ambulatory Peritoneal Dialysis)は、「連続携行式腹膜透析」とも呼ばれ、患者さん自身が手動で透析液の交換を行う方法です。一般的に、1日に3回から5回、透析液のバッグを交換します。1回の交換にかかる時間は約20分から30分程度です。朝、昼、夕方、就寝前など、患者さんの生活リズムに合わせて交換時間を設定することができます。
この方法は、自宅や職場など、清潔な環境であればどこでも透析液の交換が可能なため、通院の必要が少なく、通院の回数が少なく済みます。
患者さん自身やご家族が透析の管理を行うため、治療を始める時には、自分でできるようになるまで病院で操作方法を教えてもらえます。
APD(自動腹膜透析)
APD(Automated Peritoneal Dialysis)は、「自動腹膜透析」とも呼ばれ、専用の自動腹膜透析装置(サイクラー)を用いて、主に夜間、就寝中に透析液の交換を自動的に行う方法です。患者さんは寝る前に装置をセットし、朝には透析が完了しているため、日中の時間を自由に使うことができます。APDは、日中に仕事や学業、社会活動などで忙しい方や、手動でのバッグ交換が難しい方にとって有効な選択肢となります。
装置が自動で透析液の注入・排出を行うため、患者さんの負担が軽減されます。ただし、装置や透析液の備蓄スペースの確保が必要となります。
カテーテルの役割と管理
腹膜透析では、腹腔内に留置されたカテーテルが非常に重要な役割を果たします。このカテーテルは、透析液の出入り口となるため、常に清潔に保ち、感染症を防ぐことが重要です。
カテーテルの出口部(皮膚から出ている部分)は、毎日消毒し、清潔なガーゼなどで保護する必要があります。
また、カテーテルを引っ張ったり、曲げたりしないように注意が必要です。
出口部感染は、腹膜炎の原因となる可能性があるため、発赤、腫れ、痛み、膿などの異常が見られた場合は、速やかに医療機関に連絡し、適切な処置を受けることが求められます。
カテーテルの適切な管理は、腹膜透析を安全に継続するために不可欠な自己管理項目です。
腹膜透析のメリット
腹膜透析の大きなメリットは、自宅で治療が行えるため、通院の負担が少ないことです。これにより、仕事や学業、趣味など、日常生活の自由度を保ちやすいです。
また、透析が連続的に行われるため、血液透析に比べて体への負担が少なく、血圧の変動が穏やかである傾向があります。
残った腎機能(残存腎機能)の維持にも有利であるとされており、食事や水分制限も血液透析に比べて比較的緩やかです。(3)
前述のようにシャントの造設が不要であるため、腕に針を刺す痛みやシャントトラブルの心配がありません。
出典:
(3)Benefits of preserving residual renal function in peritoneal dialysis
Kidney International Supplements. 2008 Apr;73(108):S42-S51 doi: 10.1038/sj.ki.5002600
腹膜透析のデメリット
一方で、腹膜透析には腹膜炎のリスクが伴います。原因の一つとして、透析液の交換時に細菌が腹腔内に入り込むことで腹膜炎を発症する可能性があり、これは腹膜透析を継続する上で注意すべき合併症です。
また、カテーテルの管理や透析液の交換作業など、患者さん自身やご家族による自己管理が不可欠であり、一定の知識と技術が必要なため、病院での教育があります。
透析液の保管スペースが必要となることや、体内に透析液を貯留するため、お腹が張る感じや体重増加を感じることがあります。
| 腹膜透析のメリット | 腹膜透析のデメリット |
|---|---|
|
|
