患者さんからのメッセージ
腹膜透析の情報誌「スマイル」
患者さんの生活ぶりなどを動画でご紹介します。
記事の内容、執筆者の所属等は発行当時のままです。
当ビデオは、患者さんの主観に基づく内容・患者さん個人の経験によるもので、全ての方に該当するものではありません。
治療については、主治医にご相談いただきますようお願いいたします。
ビデオメッセージ
PDをしながら、リタイア生活を満喫
堤さん(64歳)が職場の健診でたんぱく尿を指摘されたのは40代の頃でした。その後も愛媛県の高校で教鞭をとりながら、自覚症状を感じることもなく過ごしてきました。プライベートではご主人に先立たれ、お子さんたちが独立したことなどから、58歳のときに早期退職をして再婚し、新天地大阪で心機一転、1からのスタートを切ることになりました。
大阪に来て2年目に、腎不全となって透析か移植かの選択を迫られることになったとのこと。「そのときは泣きましたよ。息子は自分の腎臓を提供すると言ってくれましたが、親が子どもからもらうなんてことは考えられなかったので断りました。血液透析は、週3回、しかも1日4時間も時間を拘束されてしまうので、人生もったいない! と思いました。その点腹膜透析(PD)ならば、ある程度自由がききそうなので決めました。仕事を引退したら着物を着て過ごすのが夢だったので、手術のとき、先生に『和服を着たいから、帯を締められる位置に出口部をつくってね』とお願いしたんです」とつらい選択の話題もにこやかに語ってくださいました。
逆転の発想で、今を楽しく生きる!
堤さんがPD生活を始めてから4年が経過しました。毎晩22時から寝ている間に器械で透析液の交換をしています。「よく眠れていますよ。お腹に透析液が入っているので、左右どちらかの横向きで寝ていますが、自然にカテーテルを持ちながら、身体の下敷きにならないように寝返りしているみたいです。朝は7時頃まで寝られます」。睡眠時間をたっぷりと確保できるのも、夜に行うAPDのよいところだと話してくださいました。
また、APD操作の際に、器械のことを「愛する『ゆめお』くん」と呼んでみたり、排液バッグに「ポチ」という名前をつけて「ポチ! おいで!」などと呼びかけてみたりと、毎日ご主人に「笑われながら遊んでいる」のだそうです。
「人生を終わるときには『ああ、楽しかった! 』と思いたいじゃないですか」と明るく笑う堤さんは、そのために旅行や絵手紙を描くなど、趣味をたくさんお持ちで、リタイア生活を充実させていらっしゃいます。これからは、絵手紙を出したり、高齢者の話に耳を傾ける傾聴ボランティアをしたりして、自分の幸せをみんなに分けてあげたいと考えているとのこと。ともするとつらいものになりやすい治療を、むしろ楽しんでしまうという逆転の発想は、病気の方でなくとも生き方のヒントになりました。
外出やお楽しみのスケジュールは、午後に
朝APDを終了した後、家事などを行い、11時頃にお腹の透析液を排液するので、「午前中は家でゆっくり」を基本に1日のスケジュールを組んでいます。目下通っている絵手紙やきり絵などの趣味の教室の時間は、午後にまとめてとることにしました。このように外出のリズムをつくってしまえば、PD生活にさほど不自由を感じないそうです。
写真:堤さん(左から3人目)と、(左から)林晃正先生、 山中看護師、川端裕彰先生
休日には、蕎麦打ち名人のご主人が打った蕎麦を友人と一緒に食べたり、ご主人と何泊かで国内旅行に出かけたり、娘さん一家のいる愛媛県まで遊びにいったりと、悠々自適のリタイア生活を満喫していらっしゃいます。
「自分のことを、病人だなんて思ったことがない!」とおっしゃる堤さん。透析療法で悩んでいる方に対しては、「まず自由な時間が多くもてるPDを選択してほしい。そして生活をイキイキと楽しんでほしい! 」とのアドバイス。身をもって体験している堤さんの言葉だけに、何よりも説得力がありました。
ドクターからのメッセージ
大阪府立急性期・総合医療センター 腎臓・高血圧内科 部長
林 晃正 先生
腹膜透析(PD)は残存腎機能を保存でき、患者さんのライフスタイルに合わせて透析パターンを決められるところが、最大のメリットでしょう。堤さんのように、病気をイメージさせない生活を送られる可能性のある治療法です。最近、高齢者で動脈硬化性の腎障害によって透析になる方が増えていますが、液量が少なくてすむため、こうした方にもPDが向いていると思います。
担当医 川端 裕彰 先生
導入期の教育が身についているため、旅行に出かけられたときでも食事の適量をわきまえ、体調管理が上手にできています。このまま頑張っていきましょう。