患者の達人

「毎月の検査データが悪くなっていたことは分かっていましたが、体調に変化はなかったため、透析が必要なほど腎臓が悪くなっているとは思いませんでした。ですが、先生に『透析が必要』と言われたので、やらなければいけないのだなと諦めました。厄介な病気になったと思いましたね」と当時の心境を打ち明けます。

大田市立病院では、透析には血液透析（HD）とPDがあり、HDは週に3回通院が必要なこと、PDは自分で治療しなければならないが夜寝ている間に機械で自動的に透析液を交換するAPDという方法があることの説明を受けました。「PDについては、説明を聞くまで全く知りませんでした。漁師の仕事は夜中や朝早くに出発しなければならないので、HDだと仕事を辞めなければなりません。漁に出ながら週に3回通院するのは無理ですからね。仕事を続けるためにPDを選びました。自宅で治療することへの心配はありませんでした」と話します。

2021年5月にAPDを開始した中島さん、最初は機械の操作に手間取り何度かアラームが鳴りました。「カテーテルとの相性が悪かったのか注排液がうまくいかず苦労しましたが、機械操作もスムーズにできるようになりました。アラームが鳴る回数も減りましたよ」と嬉しそうに語ります。

中島さんの生活は底引き網漁とともにあります。底引き網漁は、袋状の網を海に入れ船で引いて海底にいる魚を捕る手法で、環境と資源保護のため夏場は禁漁になります。島根県の底引き網漁は毎年9月に解禁され、翌年の5月までが操業期間。その時期は早ければ夜中の0時半には家を出て、戻りは17〜18時と1日のほとんどを船の上で過ごします。「ノドグロ、大アナゴ、カレイ、ヒラメ、タイ、アマダイなど山陰沖の海底にいる魚はなんでも網に入ってきます。日によって漁場は異なりますが、近いところで往復1時間、遠いと往復10時間近くかかることもあるんですよ」と、飛び切りの笑顔で説明します。

中島さんのAPD治療は、漁から戻り入浴と食事を済ませた18時半〜19時半に開始します。漁に出ない期間の治療時間は8時間ですが、漁に出る期間は出発準備もあるため5時間に短縮しています。「早寝早起きが身に付いているので、漁がないときも同じ時間に治療を開始します。テレビを見ながら準備し寝付くんですよ」。

以前はなんでも食べていたという中島さんですが、現在では食事量を減らし、特に塩からいものは控えています。また、時間が合わず家族で出かけることはあまりないとのことですが、同居している中学生のお孫さんが出場する野球の全国大会の試合を応援しに行きたいと希望しています。

最後に同じPD患者さんに向けて「仕事を続けられるPDという方法があってよかったです。PD治療、一緒に頑張りましょう」とのメッセージをくださいました。