患者の達人
腹膜透析の情報誌「スマイル」
2022年スマイル秋号 腹膜透析(PD)と共に自分らしく暮らす患者さんをご紹介します。
記事の内容、執筆者の所属等は発行当時のままです。
PDの処方は医師の判断に基づき行われます。また、「患者の達人」の記事には患者さん個人の感想・意見が含まれており、全ての方に該当するものではありません。

残存腎機能を活用できるPDを選択
保田さんの腎不全が発覚したのは、人間ドックで「要精検」と判定されたことがきっかけです。それまでは体調を崩したことはなく、自覚症状もありませんでした。そこで近医に紹介してもらい、以前から親しみを覚えていた藤田医科大学病院で精密検査を受けました。
写真:前列左から主治医の成宮先生、保田さん、臨床工学技士の森さん。
後列左から看護師の水野さん、臨床工学技士の安樂さん
「最近では、ダイヤモンド・プリンセス号の乗客乗員受け入れで有名になりましたが、藤田医科大学病院とは縁があって昔からファンでした。先生方は若いながらもしっかりしていますし、看護師さんの教育も行き届いている素晴らしい病院です。ですが、受診したときには既に残存腎機能が33%まで下がっていた私の腎臓は、現代の医学では元の状態には戻せない、進行を遅らせることができても最後は透析が必要になると説明され、ショックを受けました」と話します。
保存期治療を続け7年ほど経過すると残存腎機能が8%へと低下し、透析が必要と告げられました。渡されたパンフレットやインターネットの情報を吟味した保田さんは、PDを選択。「血液透析(HD)では開始後すぐに残存腎機能が0%になってしまうのに対し、PDでは残された腎機能を活用しながら治療できると知ったことがPD選択の決め手となりました。たとえ8%でも残っている腎臓は使おうということで、まずはPDを行い、できなくなったらそのときはHDをやろうと決意しました」と説明します。
寝ている間に機械で自動的に透析液を交換するAPDで治療を開始したところ、フィブリンが出てチューブに詰まり、夜間にアラームで起きてしまうこともあったそうですが、「食欲が戻り体調も回復し、PD治療は成功したと考えています。24時間体制で丁寧に対応してくださるコールセンターにも感謝しています」と話します。
50歳で一念発起、自宅で囲碁道場を開設
保田さん夫婦が暮らす敷地内には三女と小学1年生の双子の孫が住んでおり、いつも一緒に食事を取っています。お孫さんたちの父親は4年前に急逝し、幼かった2人は父親の死をまだしっかりとは理解できていません。「お父さんはどこに行ったのかな。会いたいね」との言葉に涙が止まらなくなるそうです。2人を自分たちの子供だと思って育てていこうと決心し、父親代わりを務めながら1日でも長く生きることを目標にPD治療を続けています。
保田さんの最大の趣味は大学時代から続けている囲碁。自宅で囲碁教室を開けるくらい強くなりたいと50歳で一念発起し、中部日本棋院に通うことに。念願かなって10年前に「保田囲碁道場」を開設しました。生徒や仲間たちとは、日々囲碁を打つだけでなく、年に2回開催する囲碁大会や季節ごとに行う食事会などで交流を深めています。また、最近では教員時代の仲間たち約200人と中日ドラゴンズの私設応援団をつくって野球観戦をするなど、囲碁以外の趣味も楽しんでいます。
現在、全身の痒みが強くなったことから、週1回のHDとの併用に向けて準備中の保田さん。最後に「いつも『スマイル』の読者の声を参考にしています。“同じ症状の人がいる” “自分1人だけではない”と心強く感じ、自分も頑張ろうと勇気をもらえます。孫たちにも囲碁を教え、早く一緒に打てるようになりたいですね」と笑顔で話してくださいました。
ドクターからのメッセージ
藤田医科大学病院 腎臓内科
成宮 利幸 先生
保田さんは非常にアクティビティの高い方で、PD導入後もさまざまなことに取り組んでおられます。最近では全身の痒みに苦労され、夜も眠れないほどでしたので、服薬調整に加え、週1回のHDを併用したところ、結果的に全身の痒みは改善し、現在では快活に毎日を過ごされています。PDはHDの併用が必要となることもあります。確かに週1回のHD通院は大変で生活スタイルも変わりますが、併用することで保田さんのように再度元気な状態を維持し、趣味やご家族との時間を確保できるものです。併用療法で毎日をポジティブに過ごされている保田さんは、PD患者さんのロールモデルとなるのではないでしょうか。今後も元気に毎日を過ごせるよう、一緒に頑張りましょう。