患者の達人
腹膜透析の情報誌「スマイル」
2021年スマイル夏号 腹膜透析(PD)と共に自分らしく暮らす患者さんをご紹介します。
記事の内容、執筆者の所属等は発行当時のままです。
PDの処方は医師の判断に基づき行われます。また、「患者の達人」の記事には患者さん個人の感想・意見が含まれており、全ての方に該当するものではありません。
医療スタッフに相談し、背中を押されてPDを開始
高血圧と糖尿病の持病があり腎臓病を指摘されていた和泉さんが腎機能の悪化を実感したのは、野菜づくりのボランティア中の出来事でした。「体を動かすのがだるくて腎臓がまいってきているなと感じたころに、通院していた病院の先生からも検査数値が悪いのでシャントの手術をしましょうと言われました。いよいよ来たかという思いでした」と当時を振り返ります。ちょうどそのころ、胸に水がたまって苦しかったことも重なり、水分を抜くために先生の勧めでHDを開始することになりました。
写真:左から相川先生(主治医)、看護師の水村さん、和泉さん、看護師の小黒さん、臨床工学技士の加藤さん、中村先生(主治医)
HD開始後しばらくして、現在も通う長久保病院に転院した和泉さん。80歳を迎えたことを機にPDへの変更を思い立ちます。「軽度認知障害を患う家内のそばにいたいという思いがあったのですが、HDだと1日置きに病院に行って4時間の治療を受けなければなりません。インターネットで調べたところ、PDであれば自宅でできる上に時間の融通も利くと分かり、挑戦してみようと考えました。長久保病院の先生、臨床工学技士さんや看護師さんに相談したところ、背中を押してくださったのです」と経緯を語ります。
2020年10月に手術を受け、夜寝ている間に自動的に透析液を入れ替えるAPDを開始しました。機械の操作は病院で指導してもらい問題なく行えましたが、透析液の隔壁開通作業には力が必要で苦労しました。試行錯誤の末、コツをつかみ、スムーズな治療が可能に。また、PD関連用品を金属製の籠に入れ壁にぶら下げることで、狭い場所でも快適に治療できるよう工夫しました。和泉さんは「どうせやるのなら楽な方法で楽しく治療したいと思って。他にもいろいろな工夫をしているんですよ」と微笑みます。
ハーモニカと歌で夫婦一緒にボランティア
和泉さんの1日はAPDの後片付けで始まります。朝食後は20歳になるダックスフントと一緒に散歩し、午後は読書、音楽鑑賞、絵を描くといった趣味や音楽療法・園芸療法のボランティア活動などをして過ごします。音楽療法のボランティアでは、地元の老人ホームなどを訪問し、和泉さんがハーモニカ、奥様が歌を披露するなど夫婦で大活躍。現在は新型コロナウイルス感染拡大の影響を考慮して訪問は控え、オンラインでハーモニカを吹いています。また、少しでも皆さんのお役にたてれば嬉しいと大学校友会の役員を引き受けるなど、とても80歳とは思えないほどアクティブです。今後は、PD開始後一時中断しているアコーディオン演奏を再開したり、コロナ禍が落ち着いたら奥様と旅行をしたいと考えているそうです。
最後に和泉さんは「最初はおなかに穴を開けることが少し不安でした。でも、PDは時間を自由に使えるなどメリットがたくさんある。しかもHDのように毎回針を刺す必要がないのも嬉しいですね」と話し、「透析をしなければいけないと分かったときは気分が落ち込みました。ですが今では、信頼している先生方から厳しくも優しい指導をいただき、治療を続けることができています。また、PDを始める直前に緊急マニュアルを作成してくれた看護師さんや除水に関してアドバイスしてくれる技士さんなど、スタッフの皆さんの支えに感謝しています。PDに移行できて幸せです」と、満面の笑顔で伝えてくださいました。
ドクターからのメッセージ
長久保病院 泌尿器科透析担当
相川 純輝 先生
ボランティア、語学、ダンス、音楽と多趣味でアクティブな和泉さん。奥様と一緒にいる時間を大切にしたい、時間に融通が利くからとHDからPDへの移行を希望されました。こちらがびっくりするほど勉強熱心で、週1回のHDを併用したハイブリッド透析への移行後は大きな問題もなく経過しています。コロナ禍でなかなか外出ができませんが、落ち着いたらぜひ希望されていた奥様との旅行を楽しんでいただければと思います。今後も和泉さんが充実したPDライフを過ごせるよう、当院職員一丸となってサポートさせていただきます。これからもよろしくお願いします。