患者の達人
腹膜透析の情報誌「スマイル」
2021年スマイル春号 腹膜透析(PD)と共に自分らしく暮らす患者さんをご紹介します。
記事の内容、執筆者の所属等は発行当時のままです。
PDの処方は医師の判断に基づき行われます。また、「患者の達人」の記事には患者さん個人の感想・意見が含まれており、全ての方に該当するものではありません。
CAPDからAPDへと変更したことで仕事と治療の両立が楽に
新家さんが腎臓の異変に気付いたのは、インフルエンザの治りが悪く、病院で検査を受けたときでした。マイコプラズマ肺炎の合併に加え、高血糖と腎機能低下が発覚。その後、食事療法と薬物療法による治療で経過を見てきましたが、2年半後には腎機能がさらに悪化し透析を導入することになりました。「ゆくゆくは透析をしなければならないと分かってはいましたが、実際に告げられたときはショックでした。ですが、透析をしなければ死んでしまう、まだやりたいことがあるのだから、生きていくために導入しようと決心しました」と振り返ります。
写真:左から内山先生、森本先生、中山堯振先生(腎臓内分泌代謝内科)
透析を始めるに当たって、日常生活や仕事に影響が少ないPDがよいのではないかと考えた新家さん。主治医からも勧められ、また、奥様も同じ考えだったことからPDを選択し、1日4回バッグ交換を行うCAPDを開始しました。
しかし、新家さんのPDライフ開始当初は順調とはいえませんでした。カテーテルの位置が不安定で排液がスムーズにできず、むくみの症状が出て、カテーテル位置を調整する再手術を行いました。「カテーテルの位置がずれた原因は定かではありませんが、もしかしたらライブで飛び跳ねたことが原因かもしれないと思い、以来、大好きなMONGOL800のライブでも飛び跳ねないで楽しむようにしています」と笑います。
その後、治療が安定した新家さんは、CAPDから夜寝ている間に透析液を自動で交換するAPDに切り替えることにしました。それまでは、歯科医の仕事の合間にタイミングを計りながらバッグ交換をしていましたが、仕事が長引き交換の時間がずれてしまったり、逆にバッグ交換のために患者さんを待たせてしまうこともあったからです。「APDに変更したことで仕事とPD治療の両立がとても楽になりました。切り替えて、本当によかったです」。
病気のつらさを帳消しにできる楽しみを
新家さんは食事に気を付ける、愛犬との散歩などでできる限り歩くようにするなど体調管理にも配慮しています。特に栄養管理の面では奥様の協力が不可欠で、「妻はPD治療をする上で最大の理解者です。感謝してもしきれないくらいです」と奥様への感謝の言葉があふれ出るほど。
友人の急逝をきっかけに、誰にでも老いや死が訪れることを実感したという新家さんは「人生を振り返ったときに、やりたいことができなかったと悔いを残したくない。いつかやろうではなく、今できることはやっておこうと考えるようになりました。後悔しないように、やりたいことをやるために仕事や治療を頑張り、体調も整えています」と強調します。また、「自分が病気になって初めて患者さんの気持ちが理解できるようになりました。病気になったこと自体はマイナスかもしれませんが、いろいろな考え方ができるようになったことは人生においてプラスだと感じています」と今の心境を話してくださいました。
最後に、PD患者さんに向けて「病気はつらいですし、治療を面倒と思うときもありますが、それを帳消しにできるような楽しみを見つけていきたいですね。できるだけ前向きに考え、自分ができることをやってお互いに元気に過ごしましょう」とメッセージをいただきました。
ドクターからのメッセージ
慶應義塾大学医学部 血液浄化・透析センター
森本 耕吉 先生
新家さんは、腎代替療法選択の過程で治療そのものにしっかり向き合うことができ、それが現在の前向きに治療を続ける姿勢につながっていらっしゃいます。引き続き新家さんが、PDを続けながら、お仕事やご趣味などご自身が大切にしておられるフィールドでライフゴールを達成できるよう、お手伝いさせていただきます。
慶應義塾大学医学部 内科腎臓内分泌代謝科
内山 清貴 先生
新家さんが腎臓病という慢性疾患、PDを通して、新たな「価値」を見出し、追求されていることこそ、腎臓内科医師冥利に尽きます。これからも新家さんが疾患を「受容」し、明確な「価値」に沿った行動を選択できるよう、最大の支援者である奥様とともに、その主体的な人生を包括的にサポートさせていただく所存です。