患者の達人
腹膜透析の情報誌「スマイル」
2020年スマイル冬号 腹膜透析(PD)と共に自分らしく暮らす患者さんをご紹介します。
記事の内容、執筆者の所属等は発行当時のままです。
PDの処方は医師の判断に基づき行われます。また、「患者の達人」の記事には患者さん個人の感想・意見が含まれており、全ての方に該当するものではありません。
体や通院のことを考えPDを選択
若いころから腎臓や心臓が悪かったという田村さんですが、80歳までは食事制限などの必要もなく過ごせていました。3年ほど前にかかりつけ医からクレアチニン値が高いと指摘された後は塩分の取り過ぎに注意し、健康に気を付けるようにしていました。しかしある日、いつものようにかかりつけ医を受診したところ、2人の息子さんの姿が。その場で先生から「私が電話をかけて来てもらいました。田村さんの腎臓は透析をしなければならないほど悪くなっています」と告げられたのです。
写真:左から看護師の正堺さん、田村さん、上村先生(主治医)、看護師の髙嶺さん
紹介された奈良県総合医療センターを訪れた田村さんは、血液透析(HD)とPDの説明を受けました。「子供たちと相談してPDを選びました。PDのことは説明を受けるまで知りませんでしたし、おなかに尻尾を生やすようで嫌だなという思いはありました。でも、HDだと頻繁に通院しなければならず、体も疲れると聞いていたので」と話します。隆幸さんも「PDなら自宅でできるし、血圧の変動が小さいと聞き、心臓も悪い母にとって体への負担が少なくて済むのではないかと弟と話し合いました。母は私たちに迷惑をかけることを心配していたようですが、今では自宅でできるPDを選んでよかったと思っているようです」と語ります。
孫やひ孫の顔を見るのが楽しみ
昨年6月におなかにカテーテルを留置する手術を行い、8月に退院した田村さん。約2カ月の入院期間中に夜寝ている間に治療を行うAPDの手技を習得しました。機械の操作については、「看護師さんが優しく指導してくれました。なかなか覚えられなかったけれど、頑張って何度も教えてくれてありがたかったです」と振り返ります。
退院直後は、毎朝交代で訪問看護師とヘルパーに来てもらい、夜には隆幸さんが訪れて手助けしていましたが、1週間もすると操作にも慣れ1人でできるようになりました。現在は週1回訪問看護師に、体調の確認や出口部の消毒をお願いしつつ、普段の治療は全て1人で行っていて、「排液を捨てるのは重いですけど、男の子を2人育てましたから、腕力はあるんですよ」と明るく話します。APDは20時過ぎに準備を始め、21時から翌朝6時まで行っています。「たまに準備中にうとうとしてしまい、機械のアラート音で起こされることもあるのよ」と笑いながら打ち明けてくれました。
田村さんの日々の楽しみは、塩分に気を付けながら大好きなお漬け物を食べることと本や新聞を読むこと。長年の趣味の読書は「本があったら手当たり次第なんでも読みたい」とおっしゃるぐらい大好きと言います。そして、お孫さんやひ孫さんの顔を見ることも大きな楽しみです。現在は新型コロナウイルス感染症の影響でなかなか会えませんが、「機会を見つけて会いに来てくれるのがとても嬉しくて」と田村さん。いつもにこにこと朗らかですが、7人いるお孫さんやもうすぐ1歳になるひ孫さんの話になると、いっそう笑顔がはじけます。
月に1回の通院は田村さんが1人で行くこともあれば、隆幸さんやお友達が付き添ってくれることも。「友達は私が通院する日を覚えていて、一緒に行ってくれるんです。友達には足を向けて寝られません。PDのおかげで長生きさせてもらって、夜もぐっすり眠れますし、昼間はなんの不自由もなく暮らせています。毎日感謝ですね」と話す田村さん。隆幸さんをはじめとしたご家族やお友達、訪問看護師らに優しく見守られながら、今日も元気にPDライフを送っています。
ドクターからのメッセージ
奈良県立総合医療センター 腎臓内科
上村 貴之 先生
PDはHDと異なり自宅で行えるので、自由に使える時間が増える、針を刺すなどの痛みがなく体への負担も少ないというメリットがある半面、操作方法を覚えなければならず抵抗を感じる高齢の方も多いです。田村さんも当初は、私だけではできないとおっしゃっていましたが、ご家族の方のサポートもあり、最終的にはお1人で全てできるようになりました。透析開始から1年以上経過した現在では、すっかり生活の一部としてPDになじまれ、充実した日々を過ごしているようで、われわれも大変うれしく思っています。これからも楽しいPDライフを過ごしましょう。