患者の達人
腹膜透析の情報誌「スマイル」
2019年スマイル夏号 腹膜透析(PD)と共に自分らしく暮らす患者さんをご紹介します。
記事の内容、執筆者の所属等は発行当時のままです。
PDの処方は医師の判断に基づき行われます。また、「患者の達人」の記事には患者さん個人の感想・意見が含まれており、全ての方に該当するものではありません。
尺八などの邦楽分野で地域や学校行事に貢献
富山流日本尺八連盟の竹帥(ちくすい)大師範の資格を持つ四俵さんは、45年間、尺八の演奏を続けています。また、横笛や民謡(唄)もたしなみ、地元の小学校での民謡の実技指導、尺八や琴の鑑賞・体験教室での指導、お祭での横笛の演奏など地域や学校の行事に邦楽分野で活躍しています。
写真:スタッフの皆さんと。
前列左から四俵さん、井口先生(主治医)
10年前に尿酸値とLDLコレステロール値が異常を示したことをきっかけに腎臓が悪いことに気付いた四俵さん。さらに数値が悪化したことから、5年前に腎臓専門医がいる井口医院を紹介されました。食事についての指導を受け、気を付けるように努めましたが、一人暮らしのため食事のコントロールが難しく、透析での治療が必要になってしまいました。腹膜透析(PD)を選択した四俵さんですが、「先生からあらかじめ腎代替療法としてPD、血液透析(HD)、腎移植があることを説明されていたので、PDを選択することに迷いはなかった」と話されています。理由については、頻繁に通院しなくて済み、自宅で自分で治療ができること、自分の生活ペースに合わせた治療が可能なこと、そしてHDよりは食事制限が緩やかであると思ったことだと説明してくださいました。
カテーテルを埋め込む手術を受け、四俵さんは1日3回バッグ交換を行う方法でPDを開始しました。「バッグ交換操作は入院中の1週間で覚えましたが、家に帰った後もいつも手順を間違えないかと緊張していて、実際間違ってしまったことも2回ほどありました。あとは、術後3カ月ほどはカテーテルの出口部のかさぶたが気になりましたね。でも、透析を始めてからは手足の痺れや意識を失うことがなくなり、体調は良好になりました」と笑います。
医療の進歩に感謝して人生を楽しみたい
PDの手技に慣れてきた四俵さんですが、お腹に透析液をれた状態では腹式呼吸が欠かせない尺八を思うように演奏することができずにいました。加えて、家庭菜園で育てている野菜の手入れや草取りなどの腰をかがめて行う作業も難しく、また交換の時間に追われて外出の時間や距離が制限されるのもわずらわしいと感じていました。そこで、夜寝ている間に機械で自動的に透析液の交換を行うAPDに変更することにしました。
夜間のみの治療になったことで、フルパワーの腹式呼吸が可能になり、尺八や横笛の演奏、民謡の歌唱、畑仕事が以前のようにできるようになりました。「APDの機械では画面に手順が示されるので、ミスを気にせず行えて助かります。そして、APDを使用することで、昼間の自由を取り戻すことができました」とうれしそうに語ります。
部屋や機械をこまめに清掃する、機械に合わせてベッドの高さを調整するなど、快適な治療環境に気を配る四俵さん。食事は、すぐそばに住む娘さんの協力と管理栄養士が監修した冷凍食品をうまく利用してなるべく外食を避けたり、運動を兼ねて毎日ペットのラブラドール犬と散歩に出かけたりと、体調の維持も心がけています。最後に「APDを使用して、医療の進歩のありがたさを感じています。病気になっても医療の援助で体力の続く限り尺八と横笛を続けて地域社会に喜んでもらえるよう頑張りたいですし、昼間に自由な時間ができたので、いろいろなことにどんどんチャレンジして人生を楽しみたいですね」と話してくださいました。
ドクターからのメッセージ
医療法人仁医会 井口医院
理事長 井口 雅之 先生
四俵さんは保存期腎不全の状態より当院外来に通院をし、食事療法にも積極的で、頑張っておられました。末期腎不全に至ってしまう前に腎代替療法の選択をご本人と行いましたところ、ライフワークである雅楽を続けたいとの明確な意思を示していただきました。そこで、日中の時間的制約の少ないPDを選択し導入にいたりました。導入後もCAPDにて経過は順調でしたが、日中の腹腔内へのPD液貯留が雅楽演奏に及ぼす影響は少なくなく、APDのへの変更をご提案しました。変更後、ご本人も演奏がしやすくなったと喜んでおられ、今回当院でミニコンサートを行っていただきました。普段、雅楽を身近で鑑賞できることは少なく、私も貴重な経験をさせていただきました。できる限り、ライフワークを続けられるように一緒に頑張りましょう。