患者の達人
腹膜透析の情報誌「スマイル」
2018年スマイル春号 腹膜透析(PD)と共に自分らしく暮らす患者さんをご紹介します。
記事の内容、執筆者の所属等は発行当時のままです。
PDの処方は医師の判断に基づき行われます。また、「患者の達人」の記事には患者さん個人の感想・意見が含まれており、全ての方に該当するものではありません。
仕事を続けるためにPDを選択し無事に引退
久保さんがPDを導入したのは2010年の11月。透析を導入する必要があると告げられた際、透析にはHDとPDの2種類があるとの説明を受け、「久保さんならPDでも大丈夫ですよ」と言われたこと、PDの方が身体への負担が少ないと聞いたこと、そして何より仕事を続けられることから、PDを選択しました。
写真:スタッフの皆さんと。
前列左から3人目が久保さん、4人目が石山先生
その後約6年間、寝ている間に機械で自動的に透析液の交換を行うAPDで治療を行いながら、それまでと同じように仕事を続けました。そして、2016年の8月、65歳の誕生日をもって仕事を引退。「HDだったら同じようにはできなかったと思いますけど、おかげさまで続けられました。そういう意味ではPDに感謝ですね。職場からは『もう少しお願いします』と慰留されたのですが、あまりしがみ付くのも嫌ですし、いい潮時ということで」とにこやかに笑う久保さん。やりがいのある仕事を思う存分続けられたという達成感がその笑顔にあふれていました。
週1回のHDは将来の生活をイメージする練習になる
現在の久保さんの生活は、朝5時にAPDを終了し、もう一寝入りして7時に起床。顔を洗い、コーヒーやトーストなどの朝食を済ませ、午前中はもっぱら読書に費やしています。書店に行き、興味のある本を手当たり次第買ってくるという久保さんは「本代はかさみますが、ゆっくり本が読めるのが幸せ」と言います。昼食後は、近隣へ出かけたり、週2回のゴルフ練習に勤しんだり、近所に住むお孫さんの習い事の送り迎えをしたり。また、夕方約1時間の愛犬との散歩は、雨の日でも欠かさない大切な日課です。このように、現役で働いていたころにはできなかったことにゆっくり時間を使い、充実した毎日を過ごしています。
治療に関しては、仕事の引退を機に週1回のHDを併用し始めました。「PD導入時から、6年くらいでHDへ移行が必要になるかもしれないと言われていたので、HDの話が出るのはある程度覚悟していました。しかし、先生から『当面は週に1回のHD併用でやりましょう』と言われたときは、いきなり全面的に切り替えなくてよいんだ。併用ができるとはラッキーだと思いましたね。週1回のHDは、将来の生活の練習というか、HDライフはこんな感じになるのかなというイメージが湧きました」と前向きに語ります。HDを始めたことによる体調の変化は特にないとのことですが、ゴルフの練習や毎日の犬の散歩のおかげか、働いていたときと比べ体重が5kg減少し、体調はとても良いそうです。
最後に、腹膜炎とも全く縁がないという久保さんに、管理のコツを伺ったところ、「出口部を清潔に保つことです。毎日こまめに消毒をするのが1番です。夏場など汗をかいたときはすぐにシャワーを浴びて消毒するようにしています。今までトラブルは1度もありません」と胸を張って答えてくださいました。
ドクターからのメッセージ
JCHO仙台病院 腎センター
石山 勝也 先生
久保さんは59歳でPDを開始され、定年を延長し続けていた仕事からの引退時期がちょうど導入から5~6年に当たることから、計画的にHDへ移行できるよう、タイミングを計っていました。現在は、仕事も終えられ、週1回のHDを併用しながら散歩などの適度な運動をし、元気に過ごされています。仕事を続けたいからとポジティブにPDを選択され、それを全うされたことは、素晴らしいと思いますし、PDを続けたいという意識がとても高く、それが合併症を起こさない自己管理にもつながっていて、社会的な意味合いでPD治療がとても成功している患者さんです。今後、状態を見ながらHDに移行していくことになると思いますが、環境的な要因を含め、ご本人と相談して決めていこうと考えています。