患者の達人
腹膜透析の情報誌「スマイル」
2017年スマイル春号 腹膜透析(PD)と共に自分らしく暮らす患者さんをご紹介します。
記事の内容、執筆者の所属等は発行当時のままです。
PDの処方は医師の判断に基づき行われます。また、「患者の達人」の記事には患者さん個人の感想・意見が含まれており、全ての方に該当するものではありません。
主治医の勧めで迷わずPD導入を決断
97歳の大橋さんは現役の公認会計士。法人向けの仕事からは退いた今でも長年お付き合いのある顧客の会計監査や経理業務などに携わり、一昨年には公認会計士の登録から50年の表彰を受けました。「公認会計士は全国で約2万8,000人が登録されていますが、そのうち80歳以上で働いている人は20~30人いるそうです。私は長老みたいなものですが、私より先輩もいるんですよ」と教えてくださいました。
写真:スタッフの皆さんと。
前列中央が大橋さん、右が尚さん。
後列中央が齋藤友広先生(主治医)
東京と大阪に事務所を構え、80歳を超えても仕事を続けてきた大橋さん。以前はヨーロッパから南米まで、年2回ほど海外を訪ねるアクティブな生活を送っていましたが、米寿の頃に腎不全を患い、昨年の5月には透析が必要と告げられました。
その時、大橋さんが勧められた治療は、生活の質をある程度保ちながら透析を続けられるPDでした。「透析は歳も歳ですし、覚悟はしていました。先生のおっしゃる通りにということで、不安や戸惑いはありませんでした」と、導入の決断に迷いはなかったといいます。
一方、大橋さんと同居する息子の尚さんは、「PDを導入すると言われた時は、自宅で治療を行うことへの心配もありました」と打ち明けます。初めてCAPDの操作をした時には難しさも感じたといいますが、「1週間ほど病院で教えていただいた後はマニュアルを見なくてもできるぐらいになりました」とスムーズに手技を習得できたそうです。
PDをしながら自宅での生活を始めて約3カ月が経った現在、尚さんは「私は血液透析しか知らなかったので、透析となると生活の質がかなり落ちてしまうと思っていました。しかし先生からうかがった通り、PD導入後も生活の質はそれほど落ちず、本当に感謝しています」と喜んでいます。当の大橋さんも「苦痛もないし、導入前に比べて、感覚として80%くらいはそれまで通りの生活ができていますよ」と話してくださいました。
ゴルフコースでのプレーと関西への出張旅行を目標に
毎朝6時半には目覚め、日中は公認会計士としての仕事や、不動産管理の事務も手がけ、趣味の庭木の手入れもしているという大橋さん。日々の食事は総エネルギー量やたんぱく質の摂取量などに気をつかいながら、入院中にiPadで撮りためたPD患者さん向けのレシピ画像も参考に、尚さんと交代で自炊をしているといいます。
「以前は低たんぱくの仕出し料理を利用することもありましたが、PDの導入にあたってもっとたんぱく質を摂るようにと指導を受けましたので、自分たちで作っています。食材の買い物にも電車に乗って自分で行きます」
一日2回の透析液の交換は、ご本人が自動接続の機械を使って接続操作を、その他の部分は尚さんがサポートしています。しかし大橋さんは、今後はできるだけ自分だけでできるようになるよう、手技の習得を心掛けています。それは、趣味のゴルフで再びコースに復帰することと、関西への旅行という目標があるからです。
「長年ゴルフが趣味だったので、今でも自宅の屋上で素振りはしています。ですからもう1度、コースに出てプレーをしたいですね。また、関西には事務所や本宅があるので、自分一人で行けるようになりたいんです」
白寿を目の前にして、仕事にも趣味にも意欲的な大橋さん。今後の目標を生き生きと語るその表情には活力が満ちていました。
ドクターからのメッセージ
独立行政法人 地域医療機能推進機構 東京高輪病院
腎臓内科 齋藤 友広 先生
大橋さんは97歳と非常に高齢ですが、お仕事とゴルフを続けられ、腎不全保存期の外来でも毎回、趣味のことなどで話に花が咲いていました。腎不全が進行した際の治療方針は大変悩みましたが、自身の生きがいを大事にするためにどうするか?という視点で、ご家族も含めて相談し、PDを開始されました。PD導入時は手順の理解にやや時間を要しましたが、ご家族の協力もあり、自宅でのPDも出口部感染などのトラブルもなく順調に過ごされております。大橋さんがPDと付き合いながら、自分らしく楽しく生活している姿をお手伝いできていることが、私達スタッフにとっての一番の喜びです。