患者の達人
腹膜透析の情報誌「スマイル」
2016年スマイル春号 腹膜透析(PD)と共に自分らしく暮らす患者さんをご紹介します。
記事の内容、執筆者の所属等は発行当時のままです。
PDの処方は医師の判断に基づき行われます。また、「患者の達人」の記事には患者さん個人の感想・意見が含まれており、全ての方に該当するものではありません。
急性膵炎をきっかけに病気が発覚、緊急血液透析からPDの導入へ
長年、岡山で高校の国語教師を務めてきた三宅さん。修学旅行の引率や海外に住む親戚宅の訪問などで、国内旅行はもちろん中国やアメリカ、ベトナムなど海外旅行の機会もたびたびあったそうです。定年後は奥様と国内のあちこちへ出かけ、「いずれはスイスあたりに行ってみよう」と海外旅行の計画も話し合っていました。
ところが、64歳の時、急性膵炎を発症。いったんは回復しましたが、翌年再発し、この時の検査で「コレステロール塞栓症」が発覚しました。腎機能も悪化していたため入院して緊急の血液透析(HD)を受け、医師から「退院後も透析が必要」と告げられます。「それまで透析について詳しいことは何も知らなかった」という三宅さんは、HDと腹膜透析(PD)のメリット・デメリットを聞き、奥様にも相談した結果、PDを選びました。「1日数回のバッグ交換さえすれば、後は自由に時間を使えると聞き、PDを選びました。バッグ交換をするのは不自由と言えば不自由ですが、今考えるとPDで正解でしたね」。
日帰りから泊まりの旅へと徐々に遠出 そして、海外へ
自宅でのPDを開始した後、半年ほどたった頃から、徐々に旅行も再開しました。PD導入後、最初の遠出は奥様と車で日帰りの温泉旅行へ。それ以降、車で国内の各地へ出かけるようになり、2014年には四国八十八カ所を巡り、岐阜県の奥飛騨へ泊まりがけの旅行にも行きました。
こうして、国内旅行を楽しむようになった三宅さんも「海外旅行はさすがに無理だろう」とあきらめていたそうですが、昨年の春、PD患者さん向けバンクーバーツアーの案内が目に留まりました。「行ってみようか」と奥様に話したところ、すぐに賛成。主治医の先生からもすんなりOKが出て、海外への旅が決定しました。
旅行当日、集合場所の成田空港にて、他の参加者の方々と一緒にバッグ交換を行い、バンクーバーに向けて出発。PD開始後初の海外旅行であるご自身に比べ、旅慣れた様子に見えた皆さんにも、このバッグ交換で一気に親近感が湧いたと振り返ります。バンクーバーでは、マーケットやフェリーで現地の文化や雰囲気に触れ、また、美しい街並みや近郊の自然をめぐる観光、ディナークルーズなど「非日常」を満喫しました。旅行4日目には、奥様と2人だけでの自由行動にも挑戦。「トイレ探しに困るやら、身振り手振りで昼食のホットドッグにやっとありつくやら」と苦労した末に口にしたホットドッグとコーヒーはとても美味しかったそうです。
旅行中、唯一のトラブルは、到着初日にホテルでバッグ交換を行おうとした時のことでした。S字フックをかける場所が見当たらず、現地ガイドさんにも一緒に探してもらうことに。結局、クローゼットの中にかけられるところを発見。いつもより低めの位置だったため、ご自身は床に座って注液をすることで解決しました。
こうして、PDでの初の海外旅行を楽しまれた三宅さんには、旅行中、もう一つ、印象に残ったことが。「ご夫婦での参加者では、特に奥様方の表情が輝いていました。奥様の主導で旅が実現したのかもしれませんね」。そんな三宅さんの奥様も帰り際、「次回も……」とつぶやかれたそうです。「今はまだ、バンクーバーの余韻に浸っていますが、時間がたてばまた旅に出かけたくなるでしょうね」。そう話す三宅さんの笑顔も輝いていました。
ドクターからのメッセージ
岡山医療センター
看護師 後藤 宜子さん
三宅さんは学校の先生をされていただけあって、物腰は柔らかいですが、ご自分の意見はきちんと話されるしっかりした方ですね。旅行がお好きなことは以前から知っていたので、バンクーバーのお話を聞いた時も「他の患者さんと交流する良い機会にもなるから」とお勧めしたのを覚えています。これからも楽しい旅行を続けられるようサポートしていきたいと思います。