巻頭特集
腹膜透析の情報誌「スマイル」
2022年スマイル冬号 腹膜透析(PD)患者さんに役立つ特集記事です。
記事の内容、執筆者の所属等は発行当時のままです。
地方独立行政法人 大阪府立病院機構 大阪急性期・総合医療センター
- 上田 仁康 先生
腎臓・高血圧内科 主任部長
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定期的な検査が必要な理由を教えてください。
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PDは自宅で患者さん自身が行う治療ですので、治療が適正に行われているか、異常がないかを定期的に検査して確認することが重要です。検査では、合併症を発症していないか、PDの処方が合っているかについても見極めています。また、検査結果の推移を見ることで変化の傾向を把握し、早期に対応することもできます。PDをできるだけ長く続けるためにも、検査は必要なのです。
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一般的に行われている検査とその頻度を教えてください。
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当院の例では、まず、毎月の診療時に血液検査を行っています。血液検査では、クレアチニン、尿素窒素(BUN)、アルブミン、ヘモグロビン、ナトリウム、カリウム、カルシウム、リンなどを調べます。他にも胸部X線(レントゲン)検査は3カ月ごとに、心電図と心臓の超音波検査(心エコー)、腹膜平衡試験(PET)は6カ月ごとに、全身の造影CT、頸部超音波検査(頸部エコー)、骨密度検査、24時間蓄尿・排液検査は1年に1回行います。
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患者さんに特に確認してほしい検査項目はありますか。また、各項目からどのようなことが分かりますか。
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クレアチニンとBUNからは腎機能の状態が分かります。電解質と呼ばれるナトリウム、カリウム、カルシウム、リンは食事の影響を受けやすく、カルシウムとリンは骨の代謝とも関連が深い項目です。また、アルブミンは栄養状態の指標になりますし、ヘモグロビンは貧血の指標となります。こうした項目の数値は患者さんにも見ていただくように伝えています。
カルシウムとリンに関しては、検査値が急上昇してもすぐに命の危険はありませんが、長い目で見ると動脈硬化や心臓弁膜症などとの関連が深く、きちんとコントロールすることが大切です。ヘモグロビンの値が急激に下がった場合はどこかで出血していると考えられ、命の危険が高いため他の検査を追加して原因を追究します。 -
画像検査では何が分かりますか。
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画像検査では合併症がないかを確認しています。例えば胸部X線検査では、主に体液量の指標として心臓の大きさや肺に水がたまっていないかが分かります。同様に、心エコーでも体液量が確認でき、また、心臓の動きや心臓弁膜症の有無も確認しています。頸部エコーでは動脈硬化および副甲状腺の状態を調べています。PD患者さんを含め、慢性腎臓病の患者さんは、カルシウムとリンのバランスが崩れると、副甲状腺が影響を受けて二次性副甲状腺機能亢進症を併発するため、注意して観察しています。また、全身の造影CTでは悪性腫瘍の有無も確認しています。
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腹膜平衡試験(PET)について詳しく教えてください。
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PD患者さん特有の検査であるPETは、腹膜の機能と性質を見る検査です。透析液2リットルを4時間貯留し、透析液にクレアチニンがどのくらい移行したか、透析液からブドウ糖がどのくらい血中に拡散したか、水分がどのように移動したかをチェックして腹膜の機能と性質を評価します。腹膜の性質には「High(ハイ)」「High Average(ハイアベレージ)」「Low Average(ローアベレージ)」「Low(ロー)」の4つのカテゴリーがあり、「High Average」や「Low Average」であれば腹膜の性質に大きな変化はないと判断します。長期間「High」が続く場合は腹膜が劣化している可能性があり、残存腎機能や合併症の有無などと合わせて総合的に判断し、PD処方の変更や血液透析(HD)への移行を検討します。
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24時間蓄尿・排液検査はどのような検査ですか。
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透析の効率を見る24時間蓄尿・排液検査もPD患者さん特有の検査です。1週間当たりの尿素除去率(Kt/V)を測定し、現在の透析液量や交換回数が適正かを判断します。この検査は、蛋白質や塩分の摂取量を正確に測ることができるため、食事内容を検討する際の指標にもなります。24時間分の尿と排液をためないといけないため大変だとは思いますが、自分の治療がうまくいっているかどうかを知ることができる大切な検査です。
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日々の生活の変化は検査結果に表れますか。
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急に検査の数値が悪くなった方の中には、一時的に生活習慣が変わってしまっていたという場合もあります。話を聞いてみると、カップラーメンなどのインスタント食品を食べる頻度が増えていたり、年末年始などに食べ過ぎていたり。そのような場合は食べる量や内容を見直し、生活を改善していただくと、次の検査ではほとんどの方が元に戻ります。このように食事の影響は大きく、すぐに検査値に反映されますので、当院では検査結果を見ながら必要に応じて栄養指導をすることもあります。
一方で、食事や生活に気を付けていても、PD継続中に、貧血や二次性副甲状腺機能亢進症が進行したり、薬への反応性が悪くなってしまうことにより検査結果に影響したりする場合があります。「頑張って気を付けているのに」と納得がいかない気持ちになることもあるかもしれませんが、病状に合わせて注射薬や内服薬を調整しますので、主治医からの説明をよく聞いていただければと思います。 -
検査に関して、日々の生活で気を付けることはありますか。
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検査ではありませんが、PD患者さんには毎日PD手帳に体重や血圧、体温、透析液の注排液量などを記入してもらっていると思います。PD手帳の内容は、治療ができているかを確認するのにとても役立ちますので、毎日きちんと記入していただきたいですね。また、腎機能の働きが悪いと電解質のバランスが崩れやすく、PDで電解質のバランスを整えています。しかし、PDだけでは難しい場合は、内服薬や注射薬で調整する必要があります。こうした調整も、検査データとともにPD手帳や診察時の様子などを合わせて判断します。
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PD患者さんに向けてメッセージをお願いします。
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当院では保存期のころから長く通院している患者さんが多く、家庭や仕事のことなど生活環境を含めてお話しできる間柄の方が多いですが、それでも医師にはなかなか声をかけにくい方もいらっしゃるかもしれません。そんなときは、看護師や栄養士、薬剤師などの周りのスタッフに話をしてみてください。悩みごとや疑問に思ったことなどなんでも構いません。できる限り長くPDを続けてもらえるよう私たちはサポートしたいと考えていますので、一緒に頑張りましょう。
検査の種類と頻度
PD患者さんに特有な検査
毎日の暮らしと検査
大阪急性期・総合医療センターの取り組み
同センターは比較的規模が大きく、大勢のスタッフが所属しており、臨床の場では若手の先生方も活躍しています。腎臓内科では若手の先生もPD患者さんの主治医となり、導入のための入院から外来通院に至るまで、PD診療の全てを担当する体制を構築しています。維持管理しているPD患者さんの人数が多いこともあり、若手の先生でも数多くの経験を積むことができているそうです。転勤などで離れても、同センターで培われた経験が次の施設に引き継がれ、その地域におけるPDの普及や啓発につながっています。また最近では、高齢のPD患者さんが増えてきていることから、高齢患者さんが安心してPDをできる限り長く続けられるよう、訪問看護ステーションや地域の医療機関、開業医との連携にも力を入れており、サポート体制を充実させています。