巻頭特集

腹膜透析の情報誌「スマイル」

2022年スマイル秋号 腹膜透析(PD)患者さんに役立つ特集記事です。

記事の内容、執筆者の所属等は発行当時のままです。

2022年スマイル秋号 巻頭特集

高齢者とPD

超高齢社会の日本では、透析患者さんの導入時の平均年齢は70.88歳、透析患者さん全体の平均年齢は69.40歳と高齢化が進んでいます。今回の特集では高齢患者さんが透析をしながら元気に安心して過ごせるよう、高齢者にとっての腹膜透析(PD)のメリット、PD治療を良好な状態で継続するためのポイント、利用できる社会資源などについて紹介します。

※日本透析医学会統計調査2020年末年次調査より

お答えくださった方々

公益財団法人 大原記念倉敷中央医療機構 倉敷中央病院

  • 福岡 晃輔 先生
    腎臓内科 部長
  • 杉原 妃美恵 さん
    総合相談・地域医療・入退院支援センター 医療福祉相談グループ ソーシャルワーカー

写真:左から杉原さん、福岡先生

高齢患者さんと透析・PD

高齢の患者さんにとってPDとはどのような治療法でしょうか。

福岡先生 PDはシャントアクセスが不要で、循環動態が安定していて体への負担が少ない優しい治療法といわれています。高齢者は若年者に比べ体格がそれほど大きくないことから、必要な透析量が少なくバッグ交換の回数が少なくて済むことがあり、高齢者に適した治療法だと考えています。
また超高齢者など、人生の最期の日々を自宅でご家族とゆっくり過ごしたい方にとっても適した透析療法だと考えます。

PDは自分で行うので導入をためらう高齢患者さんもいると思いますが、実際はいかがですか。

福岡先生 最近では90歳を超えても元気な方が多くいますので、高齢でも元気であればご自身でPD治療を行えると感じています。手技を覚えるのに時間がかかる場合はありますが、初めはご家族や訪問看護師に手伝ってもらっていても、1人でできるようになる方が多いです。私は「目安として、携帯電話を使える、稲刈りなどの農作業をしている、車を運転しているといった高齢者はご自身でPD治療ができますよ」と話しています。

PD治療を良好な状態で継続するためのポイント

PD治療を良好な状態で継続するために、高齢患者さんが気を付けたいポイントがあれば教えてください。

福岡先生 まずは、運動不足にならないよう体を動かすことが大事です。少し活動性が落ちてきたと感じたら訪問リハビリテーションを利用してもらう場合もあります。旅行などの趣味があれば出かけるなど、家に閉じこもらないようにしましょう。
また、高齢患者さんではエネルギーや蛋白質が不足して筋肉量が減少し、階段が上れなくなるなどフレイルになってしまうことが心配です。当院では定期的な栄養指導で食事の内容を確認した上で、エネルギーおよび蛋白質を積極的に取るよう推奨しています。リンやカリウムの数値が上昇した場合は食事内容を見直しますが、肥満のない高齢患者さんでは食事制限はあまり行っていません。
そして、治療時間をある程度フレキシブルに調整できるのがPDのメリットです。特に透析量が少なくて済む高齢患者さんはそのメリットを享受できるケースが多いので、生活を楽しめるように、治療時間が生活に合わない場合は主治医に相談してください。

利用できる社会資源

患者さんが利用できる支援にはどのようなものがありますか?

杉原さん 患者さんの年齢や状態によってどのサービスが必要になるかは異なりますが、医療面では主に訪問看護と訪問診療、生活面では介護保険によるサービスが利用可能です。

訪問看護を利用している人は多いのでしょうか。

杉原さん 当院では7割以上の方が訪問看護を利用しています。導入時の年齢が70歳を超える患者さんには、訪問看護を提案するようにしています。1人暮らしの高齢患者さんだけでなく、ご家族がいる方でも訪問看護を利用することで、安心される方が多くいます。

福岡先生 訪問看護師が出口部の観察などもしてくれるため、何か異常があっても早めに対応ができ、腹膜炎の予防にもつながります。訪問看護を利用することで、より多くの方がPDを選択することができていると考えています。

他に患者さんが利用できるサービスはありますか。

杉原さん 通院が難しくなった患者さんでは、訪問診療を利用されることもあります。患者さんの状況、地域などによって利用できる支援は異なりますが、倉敷市では看護小規模多機能型居宅介護(看多機)というサービスに併設した高齢者施設で、当院と連携してPD患者さんを受け入れてくれています。

どのようなサービスが利用できるか分からない場合、どこに相談すればよいのでしょうか。

杉原さん まずは、主治医や看護師に相談してください。医師や看護師から、病院のソーシャルワーカーへとつながり、その方のニーズに合った必要なサービスを提案してもらえます。そこから地域の相談機関やサービスの申し込み先につなぐこともできます。
サービスの利用費は状況によって異なります。費用はかかりますが、サービスの利用により快適に過ごせることにつながりますのでぜひ相談してみてください。

ご家族へのアドバイス

家族としてどのような支援ができるでしょうか。

福岡先生 ご家族ができる支援には、患者さんの治療を見守る、自動腹膜透析(APD)の準備を手伝うなどがありますが、PD外来を一緒に受診することも大切な支援の1つです。当院では多くの患者さんがご家族と一緒に受診されます。ご本人が認識していない変化にご家族が気付く場合もあります。外来では、患者さんのご家庭での様子をお話しください。

杉原さん 導入時点からご家族が本人の代わりにPD治療を行うケースもありますし、時間経過とともに本人ができなくなってご家族の協力が必要になるケースもあります。ご家族が治療を支援する場合は、その方の生活スタイルに合わせて治療のタイミングを主治医が考えることもできますので、主治医に相談していただくとよいと思います。

福岡先生 ご家族や患者さんだけで抱え込まないで、困っていることがあればなんでも相談してください。

PD患者さんに向けてメッセージをお願いします。

福岡先生 特に高齢者に対してフレキシブルな対応ができるのがPDのメリットです。PDをしているからといって自分に制限をかけ過ぎることなく、運動や旅行など趣味や生きがいを見つけて楽しんでください。また、ご家族や医療従事者など、頼れるものは頼っていただいてよいと思います。外来受診を月1回のイベントと思って、楽しみにお越しください。

杉原さん どのような暮らしや生活を送られたいのかお話しいただければ、実現できるよう調整します。できないこともあるかもしれませんが、自分の思いや送りたい人生、暮らしぶりを教えてもらえると嬉しいです。

腎臓内科スタッフの皆さん
左から看護師の江尻さん、杉原さん、福岡先生、看護師の内藤さん

倉敷中央病院の取り組み

腎代替療法の選択に当たっては、患者さんがゆっくり考えられるよう早めに療法説明を始めるという同院。推算糸球体濾過量(eGFR)15mL/分/1.73m2未満を目安に声かけし、希望があれば療法選択外来を案内しています。療法選択外来では、医師、看護師と個別に話をした後、メディカルソーシャルワーカー(MSW)と話をする機会を設けており、患者さんの希望に沿ったスタイルでの治療を実現させるべく多職種が連携・協力しています。また同院では、透析について詳しく知ってもらえるよう、透析室で血液透析(HD)を行っている様子を見学する、PDのデモ機を触ってみる、PD患者さんと話をする機会をつくるなど、患者さんに適した治療法を見つけるための取り組みも行っています。

京都市立病院

公益財団法人
大原記念倉敷中央医療機構
倉敷中央病院

〒710-8602
岡山県倉敷市美和1-1-1
電話 086-422-0210(代表)

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