巻頭特集
腹膜透析の情報誌「スマイル」
2021年スマイル冬号 腹膜透析(PD)患者さんに役立つ特集記事です。
記事の内容、執筆者の所属等は発行当時のままです。
医療法人 社団 仙石病院
- 室谷 嘉一 先生
腎臓内科 [所属:東北医科薬科大学内科学第三(腎臓内分泌内科)准教授]
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初めに、先生と運動療法の関わりを教えてください。
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私は内科医で、腎臓およびリハビリテーションの専門医でもあり、腎臓病患者さんの運動療法に関する研究も行っています。病院で患者さんを待つだけでなく、仙台市を中心に地域に出て患者さんと積極的に関わるようにしています。以前から障害者スポーツの現場にも参加しており、その縁でパラリンピックの支援にも携わっています。2010年の広州アジア大会および2012年のロンドン大会では現地に帯同し、選手をサポートしました。
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透析患者さんは健康な人に比べ身体機能が落ちやすいといわれますが、それはどうしてでしょうか?
また、身体機能の低下を防ぐ方法を教えてください。 -
PD患者さんはとても元気な方がいる一方で、座りがちで身体不活動の状態になっている方も少なくありません。動かない生活を続けると筋肉量が低下し、体が動かせなくなる負の循環が起こります。また、糖尿病や高血圧、うつなどの発症リスクが高まり、身体面だけでなく精神面でも健康な人に比べて影響を受けやすいのです。
自分の体調については、患者さんご自身が一番詳しい専門家です。「よく食べて、よく動いて、よく透析をする」をモットーに、自分の体調や健康管理に関心を持っていただければと思います。身体機能の低下を防ぐためには体を動かすこと、すなわち運動が一番です。身体機能が低くなると健康寿命が短くなるといわれますが、体を動かすことで防ぐことができます。 -
腎臓が悪い人が積極的に運動をしても大丈夫なのでしょうか。
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以前は腎臓が悪い人は安静が必要といわれ、運動は禁止されていました。しかし、現在はなるべく体を動かした方がよいという考えに変わりました。
最近、「腎臓リハビリテーション」が推奨されています。腎臓リハビリテーションとは、有酸素運動やレジスタンス運動を行うことで、腎機能を改善・維持させるというものです。運動によって腎臓病患者さんの腎機能が改善することが分かってきています。また、運動は腎保護だけではなく、高血圧などの合併症のコントロールにも役立ちます。 -
おなかに透析液が入った状態で運動を行っても大丈夫でしょうか?
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基本的に問題ありません。ただし、急に腹圧がかかるような運動は避けた方がよいでしょう。また、普段の体重に透析液が加わるので、患者さん自身の「動ける」「走れる」と思うイメージと実際の状態に食い違いが起こり、うまく動けないことがあります。透析液分のおもりを持っていると考えて動くようにしましょう。
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運動をする際、おなかのチューブはどのように扱ったらよいでしょうか?
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運動しやすいようにチューブを固定してもよいと思いますが、固定した部分に汗をかいて湿疹ができる患者さんもいます。汗をかいたらよく拭き取ってください。また、チューブが引っ張られないよう注意しましょう。
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その他、注意すべき点はありますか?
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夏は脱水や熱中症に、冬は急激な温度差によるヒートショックを起こさないように注意しましょう。
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運動に関して、誰に相談すればよいでしょうか。
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介護保険を使っている高齢患者さんでしたら、運動機能や運動メニューに関する質問はリハビリスタッフが相談しやすいかもしれません。もちろん、主治医や看護師に質問や相談してもよいと思います。
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どの程度の運動を行えばよいでしょうか?お勧めの運動を教えてください。
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有酸素運動としては、1日8,000歩を目標に散歩してください。8,000歩程度歩くと腸が動いて便秘が改善し、下剤の服用が不要になることも期待できます。家の中でどのくらい動いているのかを把握するためにも、普段から万歩計を着けて過ごすとよいですね。
また、散歩とともにお勧めしたいのはラジオ体操、テレビ体操です。ラジオ体操は老若男女誰でも知っていますし、時間になればラジオから動作の説明付きで流れてきます。第1と第2では強度が異なり、第2は強度が強めです。テレビ体操は立って行うのが難しい場合は、椅子に座って運動することも可能です。ラジオ体操、テレビ体操ともに体のいろいろな箇所を動かす運動が効率良く組み合わされた優れた体操です。 -
適切な運動の頻度を教えてください。
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ラジオ体操はできれば毎日行いましょう。また、家の中だけでは2,000〜3,000歩くらいしか動かないため、散歩も毎日できるとよいですね。ときには、デイサービスや地域のスポーツイベントに参加するのも気分転換になります。
毎日運動するのは難しいかもしれませんが、たとえ継続できず三日坊主になっても、また始めればいいのです。「思い立ったが吉日」ということわざもあるように、運動をしようと決意したときこそが、運動を始めるよいタイミングです。 -
体がだるい日や気分が乗らないときはどうしたらよいでしょうか。
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体がだるくて動けそうにないという日には運動しない方が多いと思います。ですが、いざ体を動かしてみると意外と自分が思っていたよりも動ける場合があります。これはアスリートでも同じで、今日は疲れているなと思っていても動き出すと実は調子が悪くないこともあるのです。ですので、気分が乗らなくても、ラジオ体操の音楽が流れてきたら体操してみるなど、まずは体を動かしてみることをお勧めします。ただし、運動してみて体調が悪ければやめましょう。動いてみてだめならやめるというのが、楽しく運動を続けるコツです。
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最後にPD患者さんへメッセージをお願いいたします。
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定期的な運動には血圧を下げ、内服薬を減らす効果が期待できます。さらに、身体的にも精神的にもハツラツな時間を増やすことに役立ちます。生き生きとした生活を送るためにも、日々の活動量を増やすことが大切です。よく食べて、よく運動して、よく透析をすることが、腎臓を長持ちさせることにつながります。外に出てグループでの運動を勧めたいところですが、現在の状況ではそれができません。新型コロナウイルス感染症の流行が落ち着いたら、グループで運動したり、ショッピングモールを散歩したりしてみましょう。実は、ショッピングモールはバリアフリー仕様になっている施設が多く、季節や天候の影響もなく歩きやすいのでお勧めの散歩スポットです。
なぜ運動が大切か
運動時の注意点
お勧めの運動
仙石病院の取り組み
仙石病院では、「自分の体の変化や体調を一番分かっている患者さん自身も医療チームの一員である」との考えで治療に取り組んでいます。その一環として、透析を導入する際に患者さんが主体的に治療法を選べるよう、先輩のPD患者さんにご自身の経験を話してもらったり、一緒に考えたりしてもらっています。
また、東日本大震災から10年がたち、デイキャンプで災害時のシミュレーションやトラブルシューティングをして楽しく災害を学ぶ機会を企画しました。残念ながら新型コロナウイルス感染症蔓延のためデイキャンプは延期となっていますが、落ち着いたら行いたいと考えています。