巻頭特集
腹膜透析の情報誌「スマイル」
2021年スマイル夏号 腹膜透析(PD)患者さんに役立つ特集記事です。
記事の内容、執筆者の所属等は発行当時のままです。
安心してPDを続けるために利用できる支援とは
安心して腹膜透析(PD)を継続するために、社会的支援の活用を検討してみませんか。今回の特集では、250人を超えるPD患者さんの診療に携わる小倉記念病院での取り組みを例に、PD患者さんが利用できる社会資源や地域で連携した支援体制についてご紹介します。おかかりの病院に相談する際の参考にしてみてください。
小倉記念病院
- 金井 英俊 先生
副院長 - 原田 健司 先生
腎臓内科 部長 - 野上 昌代 さん
腎センター 看護科長 - 西津 規 さん
透析看護認定看護師 - 友枝 仁美 さん
外来看護師 - 藤田 雅代 さん
外来看護師 - 長嶋 史門 さん
医療ソーシャルワーカー
写真:前列左から藤田さん、金井先生、野上さん、原田先生 後列左から友枝さん、長嶋さん、西津さん
楠本内科医院
- 楠本 拓生 先生
院長 - 中村 健吾 さん
看護師 師長
写真:左から中村さん、楠本先生
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小倉記念病院でのPD診療体制と、訪問看護の活用について教えてください。
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金井先生当院では250人を超えるPD患者さんの診療に9人の医師で当たっています。患者さんは広い医療圏から受診されますが、後期高齢者も多く、PDを安心して続けるために、さまざまなサポートを必要とする方も多くいらっしゃいます。そこで、院内の多職種による連携に加え、訪問看護ステーションや地域のクリニック、病院、福祉施設などと連携し、PD患者さんを支援しています。
西津さん透析導入に際して、患者さんやご家族の思いに添えるようにと考えており、看護師が透析導入前に外来で腎代替療法についての説明をするとともに、患者さんの日ごろの生活の様子を確認し、支援の必要性を検討しています。訪問看護を利用する場合には、担当の訪問看護師にも退院前カンファレンスに参加してもらい、患者さんの状態・情報を共有するようにしています。そうすることで退院後もスムーズな在宅治療が継続できます。また、訪問看護師が患者さんの状態を常に把握してくれることで、出口部の異常やご家族の精神的な負担などを早めに察知でき、迅速な対応が可能です。
長嶋さんPD患者さんは介護保険からの訪問看護を利用できます。介護認定がない方でも医療保険での利用が可能です。具体的な支援内容は患者さんやご家族のニーズによって変わりますが、バッグ交換手技の確認、入浴介助、出口部の確認に加え、場合によってはバッグ交換も行ってくれます。また、24時間オンコール制の訪問看護ステーションであれば夜間の緊急対応も可能です。
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訪問診療(在宅診療)について教えてください。
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金井先生当院でPDを導入された患者さんのうち、遠方の方は退院後の管理を地域のクリニックに依頼することがあります。そのクリニックが訪問診療に対応していれば、医師が患者さん宅を訪問し診察することが可能です。
楠本先生楠本内科医院では、小倉記念病院と連携してPD診療を行っています。通常は外来を受診してもらいますが、経年的な日常生活動作(ADL)の低下などにより、1人での通院が困難になる方もいます。訪問診療では、医師が定期的にそうした患者さんのご自宅を訪れ、治療・健康管理などを行います。また、緊急時には必要に応じて臨時往診や入院先の手配も行います。昨年4月には、訪問看護の経験が豊富な看護師を中心に「在宅支援部」を立ち上げ、外来診療と訪問診療をつなぐ役割を担ってもらっています。
中村さん在宅支援部では、導入前から関係職種と在宅支援の調整を行い、退院後は訪問看護やケアマネジャーと連携して体調確認や手技確認、メンタルケアに当たっています。在宅支援部が患者さんに気軽にご相談いただける窓口となればと思っています。当院では情報通信技術(ICT)を活用した連携ツールを医療スタッフ間の情報共有および患者さんやご家族とのやりとりに用いて、サポートを充実させる試みも行っています。
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その他、PD患者さんが利用できるサポートにはどのようなものがありますか。
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長嶋さん有料老人ホームに入所し訪問診療や訪問看護を利用してPD治療を行った例があります。ただ、費用は決して安くないので、経済的な負担は課題となります。デイサービスは日帰りで施設に通い、食事や入浴などの介護やレクリエーションなどを行う在宅介護サービスです。介護保険で要介護1〜5と認定されれば利用できますが、現状ではPDが行える施設は多くはありません。今後、より広げていければと考えています。また、介護者の事情で一時的に在宅介護ができない場合には、療養型病院と連携し、短期入院先としてご案内することがあります。
金井先生老老介護の高齢PD患者さんで近隣の血液透析(HD)クリニックのサポートを受けた事例もあります。こうした介護と医療の足りないところを互いに補い合える柔軟な支援ができるとよいのではないかと考えています。
西津さんHDクリニックや老人ホームと訪問看護で連携してもらう場合、お互いの顔が見える関係を築くことが大切です。施設に伺いPDの勉強会を開催することから始め、支援の体制を広げるよう心がけています。
原田先生こうした病診連携や訪問看護ステーションとのやりとりには、医療ソーシャルワーカーなどメディカルスタッフの力が欠かせません。多くのスタッフの協力の下、チームとして患者さんを支援しています。
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支援サービスを利用したい場合、どこに相談すればよいですか。
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長嶋さん入院時は病棟看護師、外来通院時は外来看護師にご相談ください。そこから私たち医療ソーシャルワーカーが外部とのつなぎ役として調整します。
友枝さん外来受診時に患者さんやご家族から話をお聞きし、例えば手技に不安がある場合には訪問看護の利用をお勧めするなどしています。不安や疑問があるときにはいつでも声をかけてください。
藤田さん普段の生活の中で不安に思った点などを電話でご相談を受けることもよくあります。ご家族がサポートを必要と感じている場合も遠慮せずご相談ください。
野上さんお住まいの地域や患者さんの状態によっては、受けられるサービスが異なる場合もあります。まずはPDでかかっている病院の医師や看護師に相談することをお勧めします。
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患者さんが在宅で安心してPDを継続するために、さらに進めたい取り組みはありますか。
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原田先生当院ではPD診療の実施に当たり、院内連携・院外連携という2本柱を中心にさまざまな取り組みを行ってきました。今後、PD患者さんが利用できる介護サービスや施設の拡充を目指し、啓発を継続していきます。また、患者さんに安心してPDライフを送っていただくために、院内・院外の連携や自宅でのPD治療の状況を遠隔で確認できるツールの活用をいっそう推し進めたいと考えています。
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PD患者さんへのメッセージをお願いいたします。
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楠本先生患者さんの高齢化が進んでいます。多職種で連携し、ご家族の精神的なサポートを含め在宅で診ていく取り組みを今後も継続していきます。
金井先生患者さん1人1人にとって良いと思える治療が提供できるよう、スタッフ一同努力しています。PDをやってよかったと言ってもらえる治療を目指したいと思います。
野上さんPDは特別な治療ではないことを発信しつつ、今後も患者さんの支えとなるよう努めていきたいです。
小倉記念病院の取り組み
政令指定都市の中でも、特に高齢化が進んだ北九州地域における虚血性心疾患や脳卒中の救急医療を担う同院。腎臓病の早期発見・早期診断・早期治療を心がけ、患者さんの腎機能やライフスタイルに合わせた治療を提供しています。腎臓内科としては約16年の歴史を有し、15年ほど前からPD診療を開始。近隣の医療スタッフへの研修会を行うなど、日ごろから顔の見える関係を構築して、PDでの地域連携に取り組み、現在は透析病院・クリニックだけでなく、透析・腎臓を非専門とする医療施設とも連携して、PD患者さんの管理に当たっています。
楠本内科医院の取り組み
楠本内科医院は1947年に開業し、1980年より現在地で診療する地域密着型のクリニック(内科・循環器科・腎臓内科・腹膜透析・消化器内科)。住み慣れた地域で安心して患者さんが過ごせるよう「地域のかかりつけ医」の役割を担い、外来診療・オンライン診療・訪問診療に対応しています。PDに関しては、近隣の基幹病院と連携し、導入前指導および導入後管理を担当しています。通院が困難な患者さんに対しては訪問診療によるPD管理を実施し、状態悪化時の往診にも対応しています。