巻頭特集
腹膜透析の情報誌「スマイル」
2018年スマイル夏号 腹膜透析(PD)患者さんに役立つ特集記事です。
記事の内容、執筆者の所属等は発行当時のままです。
社会福祉法人 京都社会事業財団 京都桂病院
- 宮田 仁美 先生
腎臓内科部長
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適正な塩分摂取が必要な理由を教えてください。
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食塩の摂り過ぎは体に水分をため込むことにつながります。食塩を1g摂取すると100〜200ccの水分が体内に残留してしまうといわれています。そうすると、むくみ(浮腫)が生じたり、血液中の水分量が増加して血圧が上昇することで、心臓に負担をかける結果になります。加えて、その他の合併症も増えてしまいます。
PD患者さんの場合、体内に余分な水分が増えると、除水量を増やすために、ブドウ糖濃度の高い透析液を使うことになり、腹膜への負担が大きくなります。また、おしっこが出ている方の場合は、利尿薬を増量し、尿量を増やすことで対処する場合もあります。このように、透析液の変更や利尿薬などの薬剤の増量といった腹膜機能の低下を招いたり、残存腎機能の低下を促すような治療へと進んでしまうことを防ぐためにも、塩分を過剰に摂取しないことが大切です。
腎疾患対策の総合的な整備に取り組んでいる京都腎臓病総合対策推進協議会では、マイナスのイメージが強い「減塩」という言葉は使わず、個々の患者さんに適した塩分量という意味の「適塩」という言葉を推奨しています。2015年7月31日には「適塩」を商標登録し、「和食の町京都から広げていこう」と啓発しています。 -
塩分を摂り過ぎた場合、どのような症状が見られますか。
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塩分を摂り過ぎると、むくみが起こり、血圧が上昇します。むくみについては、足の甲を指で押してみて戻らなければむくんでいると判断します。もっと分かりやすいのは、ひも靴ではない靴を履いてみることです。普段よりもきつく感じたり、足が入らない場合は、足がむくんでいます。体の中の水分は下に向かっておりていきますので、朝ではなく昼ごろに試してみるとよいでしょう。
また、体重の増加も1つのサインとなります。急に体重が増えた場合や少しずつでも毎日増え続けている場合は、脂肪が付いたのではなく、塩分の摂り過ぎによって水分をため込んでいるために体重が増加している場合がありますので要注意です。
1日の塩分摂取量の目安は6gです。しかしながら、体の状態や受けている治療によって適正な量は異なりますので、まずはご自分の「適塩」の量を主治医に確認しましょう。 -
夏は熱中症予防のために「水分」や「塩分」を積極的に補給するようにと勧める報道が増えます。腎不全患者さんやPD患者さんも積極的に摂取してよいのでしょうか。
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腎臓病患者さんの場合は、基本的に夏だからといって、特に塩分を多めに摂取する必要はありません。腎臓の機能が低下していて排泄する能力が健康な人とは違うわけですから、テレビや雑誌などで推奨しているからと、同じように塩分や水分を多めに摂取するのは避けましょう。
ただし、激しいスポーツや炎天下での活動などで大量に汗をかくような場合には、積極的な摂取を勧めることもありますので、個々の体の状態や活動量に応じて、医療者に相談してください。
他のサプリメントも同様ですが、普段の食事以外の物を摂りたい場合は、ご自身の体の状態を把握している主治医や看護師、訪問看護師など、医療者に相談して正しい情報を得ることが大切です。
また、夏季限定商品などには、熱中症予防対策としてナトリウムが添加されていることがありますので、栄養成分表示をよく確認するとよいでしょう。 -
塩分・水分管理を円滑に行うためのアドバイスをお願いします。
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季節ごとに栄養指導を受けることをお勧めします。夏は焼き物、冬は鍋のように季節ごとに料理は変わりますし、旬の野菜も異なります。夏には喉越しが良いことからそうめんや冷やしうどんなどの麺類が好まれますが、その場合、炭水化物が増えて蛋白質が減ることになり、栄養バランスが崩れてしまいます。また、麺類には塩分が多く含まれることも気を付けるべきポイントです。そこで、管理栄養士から季節ごとに栄養指導を受け、アドバイスをもらうとよいですね。
なお、薬剤が、残存腎機能に影響をもたらし、その結果、水分管理に影響が出る場合があります。別の医療機関から新たに薬剤を処方してもらったときには、透析主治医にお知らせください。 -
PD患者さんへのメッセージをお聞かせください。
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PDは血液透析(HD)に比べて、日常生活の中で割かなければならない時間が少なくて済む治療ですので、ぜひ、楽しく過ごしていただきたいと思います。また、PDができる期間は限られますが、自分のこと、将来への希望や将来的な治療について考える期間となりますし、自分の治療を自分で行うという貴重な機会でもあると思います。
塩分の摂り過ぎはむくみや血圧上昇、心臓への負担や合併症を増やす
夏こそ塩分・水分管理に気を付けよう
不明点・疑問点は医療者に相談を
管理栄養士による季節ごとの栄養指導がお勧め
社会福祉法人 京都社会事業財団 京都桂病院 腎臓内科の取り組み
同院では、医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、理学療法士、臨床検査技師、臨床工学技士、医師事務作業補助者などの多職種が連携し、腎臓病治療に対し包括的に取り組む「チームキドニー」が立ち上げられています。「腎臓病に尽くす人々」として、知識の共有を図りながら、チームで慢性腎臓病(CKD)検査、教育入院の充実、患者指導の標準化、地域連携強化といった活動に従事しています。
特に、地域連携では、京都府立桂高校(京都市西京区)とコラボレーションし、病院食の提供を行っています。味や風味が豊かな京の伝統野菜は、薄味でもおいしく食べることができるため、調味料などが少量で済みます。九条ネギや賀茂なすなど15種類ほどの京野菜を栽培している桂高校「京の伝統野菜を守る研究班」から提供された旬の野菜を使ったメニューは、京の伝統野菜の啓発、地産地消、学生への適塩食育に寄与するだけでなく、「野菜の味が濃くておいしい」と透析患者さんからも好評です。