巻頭特集
腹膜透析の情報誌「スマイル」
2018年スマイル秋号 腹膜透析(PD)患者さんに役立つ特集記事です。
記事の内容、執筆者の所属等は発行当時のままです。
熊本赤十字病院
- 川端 知晶 先生
腎臓内科 - 城間 久美絵 さん
透析看護認定看護師(腎センター)
写真:左から川端先生、城間さん
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熊本地震のときの様子を教えてください。
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川端先生熊本という土地柄、災害といえば大雨や台風だと思っていました。そのため、地震は全く予想しておらず突然の地震に慌ててしまい、どのように逃げたのか全く覚えていないという患者さんもいたほどです。地震を全く想定していなかったことが私たちの反省点です。
城間さん地震発生が深夜だったため、APDの患者さんは透析中でした。急いで避難しようとしてチューブに引っ張られ、そこで初めて切り離さなければならないことに気付いた方もいたと聞いています。余震が続いていたこともあり、停電の復旧後もすぐにAPDに戻ることができない患者さんもいました。
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地震発生後、どのような対応をされましたか。
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城間さんまずは血液透析(HD)中の患者さんの対応をし、水道が止まっていたので翌日のHDの手配などを行いながら、PD患者さんからの問い合わせの電話に対応していました。
川端先生患者さんに連絡を取り、停電のためAPDであればCAPDに変更するようお話ししました。APDの導入時には、災害に限らず何かあったときに使用できるように、CAPDの手技も併せて覚えていたき、CAPD用の透析液(ツインバッグ)をいくつかお渡ししてあります。
また、CAPDの患者さんで自宅の透析液の在庫が少ない方に対しては、普段バッグ交換を4回している人であれば体調を伺った上で2回や3回にするなど、回数を減らすようお伝えしました*。城間さん最終的にはPD患者さん全員と連絡が取れましたが、自宅が全壊して携帯電話も壊れたために、ご家族に連絡してやっと居場所が特定できた方もいました。連絡先はご本人の携帯電話、ご自宅、ご家族や親戚など、最低でも3ヵ所は把握しておく必要性を感じました。
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想定外だったことはありましたか。
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城間さんAPD患者さんがCAPDの手技を忘れていたことです。地震で気が動転した上に、しばらくCAPDを行っていなかったので忘れてしまったようでした。「透析液はあるのですが手技が分かりません」と言う患者さんが何人もいらして、急きょ、病院の1室を指導室にして指導しました。
川端先生入浴できなかった方が多く、出口部の感染を起こしてしまった方がいました。避難所で治療を行っていた方もいましたが、災害時は生きるために必死で、バッグ交換はしてもなかなか出口部のことまで気が回りません。出口部を清潔に保つために、出口部洗浄用のペットボトル水、あるいは消毒液を常備しておくなどの対策をしておいた方がよいでしょう。
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地震を教訓として取り組み始めたことはありますか。
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城間さんAPD患者さんの災害対策に取り組みました。「切り離し操作のため、すぐに避難できなかったのが不安だった」と聞き、当院ではチューブをクランプ2個で挟み、間をハサミで切って避難するという方法を紹介するようにしました*。年に1回指導を行い、患者さんに実際に体験してもらっています。また、チューブ交換の際にCAPDの手技の確認を徹底するようにしています。
川端先生病院側としては、十分な水が確保できるまでの間、HD患者さんには他の病院で治療をしてもらった経緯がありましたので、地震以降は給水タンクの容量を増量する、浄化装置を設置するなどの対策を講じています。
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災害時の注意点を教えてください。
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川端先生まずは落ち着くことが何よりも重要です。大抵の場合、1日や2日、PDを行えなくてもすぐに生命に関わるわけではありません。非常時に腹膜炎を起こしてしまう方が大変ですので、安全にPDができる環境を確保してから再開するとよいでしょう。PDを行えない間は、その分食事・水分管理に留意して下さい。
城間さん災害時は気が張っているからか、疲れていてもなかなか気が付きません。私たちも3日間働きづめでも疲労を感じなかったほどです。しかし、1週間ほどたつと急に疲れが出てきました。長期化すると健康な人でも具合が悪くなってきますので、無理をしないよう気をつけてください。また、外見からは分からないので、避難所などで はPD治療を行っていることを周囲に伝えた方がよいでしょう。
川端先生患者さんご本人は体調の変化に気付かないことがあるため、ご家族の方から見て疲れている、つらそうといった普段とは違う様子が少しでも感じられたら、早めに病院に連れてきてください。
*:緊急時のAPDからの離脱方法、CAPDの場合の対処法は、かかりつけ医療機関の指示に従ってください。 -
備えておくべきもの(こと)を教えてください。
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城間さんあらかじめ地域の避難所を確認しておいてください。指定避難所でないと救援物資が届かず、何も配給されない場合があります。
川端先生防災セットと一緒に透析液や治療に使う物品をいくつか置いておきましょう。同じ場所に置いておかないと、いざというときに持っていくことができません。また、避難について、患者さん自身がシミュレーションしておくことも大切です。
城間さん停電になると真っ暗になりますので、就寝時には手の届く範囲に懐中電灯を置いておくことをお勧めします。また、APDの切り離しキットもしまい込んでいると、いざというときにすぐに取り出せません。なるべくAPDの機械の近くの分かりやすい場所に置きましょう。
川端先生災害時には、病院からPD患者さんに安否確認をさせていただきます。当院では1年に1回、緊急連絡先の提出をお願いし、変更があった場合も速やかに連絡してもらうようにしています。なお、一般にいわれているもの以外で、PD患者さんが災害時に必要と思われるもの、備えておくべきものを表にまとめましたので、参考にしてください。
表 一般的な防災用非常持ち出しセットに加えてPD患者さんが備えておいた方がよいもの(こと)
防災用非常持ち出しセットと同じ場所にCAPD用透析液と治療に使う物品
(交換キット、出口部ケアキット、ガーゼ・テープなど)を常備入浴できない場合に備えて、出口部の消毒用に消毒液、ペットボトル水
手が洗えない場合に備えて、速乾性の手指消毒液
透析液をつるすためのS字フック
就寝時、手の届く範囲に懐中電灯を置く
非常持ち出しセットに減塩レトルト食品3日分を加える
指定避難所の確認
緊急連絡先(携帯電話、自宅電話、家族や親戚の連絡先)をかかりつけ医療機関に伝えておく。
緊急連絡先が変わったらすぐに連絡
(監修:熊本赤十字病院)
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PD患者さんへのアドバイス、メッセージをお願いします。
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川端先生地震はいつどこで起こってもおかしくありません。明日はわが身の気持ちで備えておいてほしいです。他人事ではなく、いつでも自分に振りかかることです。HDに比べてPDは災害時に強い治療法ですので、十分な準備と心構えをして、PDライフを楽しんでほしいと思います。
城間さん災害の怖さは経験しないと分かりませんし、全く同じ災害はありません。明日、災害が起こるかもしれないと思って準備や対策をしておいた方がよいと思います。PDは災害を乗り越えるには強い治療法だと思います。病気と仲良くしつつ、目標を持って生活していただきたいと思います。
災害が起こったときの対処法
普段からの備え
熊本赤十字病院腎センターの取り組み
同院では2012年3月に療法選択外来を開設し、患者さんが腎不全をどのように受け止めているか、患者さんのライフスタイル、仕事や趣味などについて時間をかけてお聞きする場を設け、患者さんのニーズに合った腎代替療法(PD、HD、腎移植)を提供しています。腎代替療法の決定の際には、患者さん自身が能動的に療法選択できるように多職種でサポートしています。いろいろな立場の人が関わることで、不安の払拭や治療の軌道修正ができるようにし、患者さんがPDライフを楽しめるように取り組んでいます。PDに関しては在宅医療であるため、外来受診時には自宅での様子や不安などを聴取するよう心がけています。また、緊急時には救急外来を含め、24時間体制で対応を行っており、安心して治療を受けていただける環境を整えています。