巻頭特集
腹膜透析の情報誌「スマイル」
2017年スマイル夏号 腹膜透析(PD)患者さんに役立つ特集記事です。
記事の内容、執筆者の所属等は発行当時のままです。
岡崎市民病院
- 朝田 啓明 先生
腎臓内科 統括部長 - 大山 ひとみ さん
看護師 2階西病棟 看護長 - 加藤 香那 さん
看護師 2階西病棟 - 市川 智美 さん
看護師 外来
写真:左から、大山さん、朝田先生、市川さん、加藤さん
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腹膜炎とはどのような病気ですか。またどのような症状が出るのでしょうか。
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朝田先生腹膜炎は腹腔内(お腹の中)に細菌が入り引き起こす感染によって起こる腹膜の炎症です。PD患者さんの場合、排液の混濁をきっかけに見つかることがほとんどです。その他の症状は患者さんによって異なりますが、腹痛を伴うことが多く、発熱や下痢、嘔吐を訴えることもあります。腹痛は、受診後に腹部を触ってみて初めて痛みを感じるということもあり、また、他の症状はなく、排液の混濁のみで腹膜炎が見つかる患者さんもいます。
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腹膜炎の原因としてはどのようなことが挙げられますか。
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朝田先生最近では、自動接続の機器も改良され、以前に比べて減ってはきていますが、透析液のバッグ交換時に誤って接続チューブ(お腹のチューブ)の先端を不潔にしてしまうことが原因の一つとして挙げられます。また、表在にいる菌が出口部からカテーテルを伝って感染してしまう例もあります。まれにですが、腸管内の細菌が腹腔内に移行することで腹膜炎になることもあります。これは、消化管の内視鏡検査のときや、便秘で浣腸をしたときなどに起こることがあり、むしろ医療者側が気を付けたい点になります。
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腹膜炎にかかるとPD治療にどのような影響が出ますか。
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朝田先生腹膜が炎症を起こしますので、腹膜の機能が低下してしまうことがあります。また、PDは残存腎機能を大切にしたい治療ですが、腎臓は炎症に弱い臓器ですので、腹膜炎によって残存腎機能に影響を与えることもあります。すると、透析液の交換回数を増やさなければならなくなったり、PDを長く続けられなくなったりする可能性も出てきます。
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腹膜炎が疑われるときはどうすればよいのですか。また、どのような治療が行われるのでしょうか。
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加藤さん排液が濁っている、お腹が痛い、発熱があるというような場合には、24時間いつでもすぐに病院に電話していただき、医師や看護師の指示の下、混濁した排液は捨てずに持参して、受診してくださいと患者さんにはお伝えしています。
朝田先生腹膜炎の診断が付くと、当院では、入院で治療を行っています。まず透析液の出し入れを2回行い、お腹の中を洗浄し、続いて抗菌薬による治療を行います。抗菌薬による治療は、ガイドラインに従って、まずは広い範囲の菌に効果のある抗菌薬を投与します。その後、持参された排液の検査から原因菌が特定されれば、その菌に効く抗菌薬に切り替えて治療を続けます。抗菌薬の投与期間は、原因菌にもよりますが、2~3週間のことが多いです。
ただ、中には抗菌薬治療に反応が悪く、腹膜炎の治療に難渋する患者さんもいます。特に、排液の混濁に気付いてから何日間かたって受診したような場合、細菌が膜(バイオフィルム)を形成してしまい、本来なら効くはずの抗菌薬が効きにくく、また再発や再燃を起こしやすいということがあります。腹膜炎の期間が長くなると腹膜の障害も大きくなりますので、腹膜炎が疑われたときには、すぐに受診して早期に治療を開始することが重要です。 -
腹膜炎を予防するための基本についてお聞かせください。
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朝田先生腹膜炎予防の基本は手洗いや出口部ケアなどの清潔手技です。
加藤さんPD導入時の入院中にバッグ交換操作や清潔手技について指導を行っていますが、中には、入院中はきちんとできていても、自宅では自己流になってしまう方もいらっしゃいますので、腹膜機能検査(PET)や腹膜炎での入院時に再度確認をしています。例えば、手洗いで石けんを使わずに水道水で洗うだけになってしまっていたり、バッグ交換をする部屋に交換の時以外には猫などのペットが出入りしていたりするということもありました。
朝田先生ペットを飼うのがダメということではないので、ご心配されなくてもいいです。注意すべきは、お腹から出ているチューブをかみつかれたりひっかかれたりしないようにして、ペットが出入りしない清潔な部屋で交換することです。注意すべき点には気を付けて、ペットとの生活を楽しんでほしいと思います。
加藤さん当院では、訪問看護師さんに自宅環境の確認をしてもらっており、その辺りもチェックしやすくなりました。
市川さん訪問看護師さんからいただく自宅での患者さんの情報は、われわれ外来看護師、主治医で共有しています。外来は通常月1回ですから、その間の様子が分かり助かっています。
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患者さんが陥りやすい間違えなどがありましたらお聞かせください。
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大山さんシャワーをオープンでしてよいとの許可を拡大解釈して、お風呂もそのまま入った方がいたり、出口部の消毒を前回のものを拭き取らずに毎回重ねて塗ってしまっていた方もいたりしました。後は、例えば、排液バッグの方に新しい透析液を流してしまったものを元に戻そうとするなど、不潔になる可能性がある誤った操作をしようとする方もおられました。
朝田先生誤った操作で不潔になった場合、すぐに症状は出なくても後で問題になる可能性があるため、抗菌薬の予防投与を行うこともあります。症状がなくても、気になることがあれば、躊躇なく、病院に連絡をしていただきたいと思います。
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最後に患者さんへのメッセージをお聞かせください。
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朝田先生PD治療には、清潔手技などの基本的に守るべきことはありますが、決して特別な治療ではありません。重要なポイントを守りながらも神経質になりすぎず、普通の生活を送っていただきたいと思います。
大山さん当院では訪問看護を活用するようになって、より安心してPD治療を受けていただける体制が整ってきました。ぜひ利用して安心して生活を送ってください。
加藤さんいろいろ不安もあるかと思いますが、困ったことや気になることがあればお気軽に、早めに病院や訪問看護師に連絡していただきたいと思います。
市川さん先生の前ではお話しにくいことでも気兼ねなくお話しください。アドバイスできることもあるかと思います。一緒に頑張っていきましょう。
朝田先生PD治療は、患者さんを中心に、院内の看護師、訪問看護師、医師などが協力して行う「輪のチーム医療」ですからね。
腹膜炎の基礎知識
早期の受診と早期の治療が重要
腹膜炎予防のポイント
基本は手洗いなどの清潔手技
岡崎市民病院の腎不全治療に対する取り組み
同院では、2016年度に「療法選択外来」を立ち上げ、保存期の患者さんを対象に、看護師を中心とする医療スタッフが、腎代替療法である血液透析やPDを選択するときの相談に乗っています。「PDは患者さんのライフスタイルに合わせて行えるメリットの大きい治療ですので、その治療をきちんと患者さんに伝えることは重要であると考えています」と話す朝田先生は、患者さんが持つPD治療に対する不安を少しでも軽減できればと、訪問看護師との連携を進めました。地域連携室からの働きかけにより、現在では岡崎市の20カ所を超える訪問看護ステーションでPD患者さんへの対応ができる状態となっています。「今後、在宅医療に関わる医師にも参画していただき、将来的には通常のPD外来はかかりつけ医で、困ったことがあれば当院でサポートするというように、岡崎市のPD患者さんを市全体でケアできるようになるのが理想です。そうすることで、PDが『特別な治療』として敬遠されることなく、一般的な治療として、より広く受け入れられるのではないかと考えています」(朝田先生)と、さらなる地域連携、チーム医療の推進を図っています。