巻頭特集
腹膜透析の情報誌「スマイル」
2016年スマイル秋号 腹膜透析(PD)患者さんに役立つ特集記事です。
記事の内容、執筆者の所属等は発行当時のままです。
JAとりで総合医療センター
- 前田 益孝 先生
腎臓内科 部長 - 久山 環 先生
腎臓内科 科長 - 竹井 千秋 さん
腎センター 看護師 - 飯田 昌代 さん
腎センター 看護師 - 川下 祐喜子 さん
栄養部 管理栄養士
写真:左から、竹井さん、前田先生、川下さん、久山先生、飯田さん
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PD患者さんにとって食事の管理が大切な理由について教えてください
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久山先生PD患者さんの食事管理の目的は、残された腎機能を維持し、体調を良好に保つことです。しっかりと食事を管理することは、腎臓や腹膜への負担を減らし、長く快適にPDを続けていくことにつながります。患者さんの中には、保存期は食事に気をつけていたのに、PDを始めると意識しなくなる方もいます。保存期よりも食事制限が緩やかになることが多いですが、油断せず管理を続けてほしいと思います。
前田先生食事は皆さんにとって身近なことで、世の中にはさまざまな情報があふれていますので、我々は正しい情報をお伝えするよう努めています。また、食事は生活に直結しており、何から何まで変えるのは難しいですから、今問題になっていること、すぐに改善した方がいいことから1つずつ取り組んでいくといいと思います。
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塩分をコントロールするコツを教えてください
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<患者さんのお悩み①>制限のある栄養成分の調整が難しい!
川下さん塩分の摂り過ぎは腎臓だけでなく腹膜にも負担をかけますから、減塩は非常に大切です。とはいえ、全体を薄味にすると美味しさを感じられず、食事の満足度が下がって長続きしない原因となります。
減塩のコツは、肉や魚などのメインディッシュには普通に味をつけて、副菜は味を薄くするなど、1食の中でメリハリをつけること。塩や醤油の代わりにお酢や香辛料で味をつける、野菜などは素材の味を活かしてシンプルに調理するなど、ちょっとした変更も減塩になります。味噌汁などは味を薄めるより量を減らす方がお勧めです。料亭で出すような小さめの器に盛りつければ、見た目も楽しめます。竹井さんPDより制限が厳しい血液透析(HD)患者さんが実践されている工夫も参考になります。お寿司はわさびを少しだけつけて醤油は使わない、インスタントラーメンを作る時はスープの素は半分にするなど、すぐ取り入れられるアイデアをいろいろお聞きします。PD患者さんは他の患者さんと会う機会が限られがちなので、私たちから「他の患者さんはこんな風にされていますよ」という情報を発信するように心がけています。
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リンやカリウムを上手に調整するには?
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川下さんまずはしっかりご飯を食べることです。ご飯には塩分が含まれませんし、煮物や焼魚などのおかず類に比べるとリンやカリウムも少なくなります。しかも、満足感が得られて空腹も抑えられます。
また、野菜や果物などのカリウムは水に溶ける性質があり、茹でたり、細かく切って水にさらすだけで2~4割ほど減らすことができますので、カリウムの値が高めの方は調理の時に工夫しましょう。
一方、リンは調理ではほとんど減らせません。上手に調整するには、含有量の多い食材と少ない食材をうまく組み合わせるのがポイント。リンは肉や魚、卵、豆腐といったタンパク質の多い食品に多く含まれますから、例えばメインをお刺身にした場合、副菜に冷や奴や肉じゃがなどタンパク質食品を重ねるのは避け、酢の物やこんにゃくの味噌田楽などにして、バランスをとるといいですね。また、調理の過程で他の食材に移ることはありませんので、煮物の中の野菜だけ食べるなど、食べ方の工夫でご家族と同じメニューも楽しめます。飯田さん献立を考える上でも、どの食材にリンやカリウムがどのくらい入っているかを知っておくことは大切です。管理栄養士さんに相談するなどして、ご自分がよく使う食材だけでも調べておくといいでしょう。
<患者さんのお悩み②>毎日の献立・食事づくりが大変!
川下さん毎食献立を考えるのが大変という方は、例えば朝は「パンと牛乳とサラダ」や「ごはんと目玉焼きとおひたし」というように、定番メニューを決めておくと楽になります。また、最近は療養食の宅配サービスも増えていますが、3食全部を療養食にすると飽きてしまいがちです。朝は定番メニュー、昼を療養食にし、夜だけ好きな献立を考えるようにすると楽に続けられるのではないでしょうか。
外食の場合、どうしても塩分が多くなりますが、サラダはドレッシングをかけないで持ってきてもらう、パスタは塩を入れずに茹でてもらうなど、オーダー時のひと工夫で減塩できる場合もあります。お店の方に聞いてみてください。<患者さんのお悩み③>食欲がない/ありすぎる!
川下さん食欲がない時はアイスでもプリンでも「食べたいものを食べる」ことが大切。カレーなどスパイスの効いたものもお勧めです。また、1日3食にこだわらず、少しずつ何回かに分けて食事をするのもいい方法です。逆に食欲があり過ぎる方は無理に我慢せず、カリウムに問題がなければ野菜や海藻、こんにゃくやキノコなどの食品を積極的に取り入れましょう。
飯田さん膨満感があってなかなか食事が摂れない時は、透析液の貯留時間をずらしたり、食事時はお腹を空にしたりするなどの工夫が有効な場合もあります。医師に相談してみてください。
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食事管理を長く続けるポイントを教えてください
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竹井さんデータにとらわれ過ぎず、自分に合ったものを美味しく食べることが一番だと思います。私たち看護師も継続的にサポートしていきたいと思います。
飯田さん食事管理を上手く続けている方は、体調が安定して元気な方が多いようです。細く長く、できるだけシンプルにして頑張り過ぎないことが大切だと思います。
川下さん食べられないとネガティブにならず、どうやったら美味しく食べられるかをポジティブに考えていきましょう。やはり美味しく食べられないと食事管理は続けられません。全部をきっちり管理しないと、と思いがちですが、漬け物をやめてみる、味噌汁の回数を減らすなども食事療法を実践できているということです。自信を持って楽しみながら挑戦してください。
PDを長く快適に続けていくために、オーダーメイドの食事管理を
日々の些細なことの積み重ねが上手な食事管理につながっていく
JAとりで総合医療センター 腎臓内科の取り組み
20年以上前から食事指導に力を入れてきた同院。腎臓内科と透析センターが一体となった腎センターでは専任の栄養士も設置しています。PD患者の外来診察時には、医師や看護師と共に腎専門栄養士が同席。治療内容を踏まえた食事管理について患者さんやご家族と一緒に話し合います。「同席するスタッフが患者さんについて同じ情報を共有でき、患者さんに伝わる情報がスタッフ間でずれることがありません。
また、食事に関する細かい質問にもその場で栄養士が回答できるのは、患者さんだけでなく医師にとっても心強いですね」と前田先生。食事指導だけでなく、同センターでは多職種の連携による「一体化」を大切にしています。久山先生は「高齢化が進む中、患者さんの生活スタイルに合った透析医療を提供する上でPDは重要な選択肢。だからこそスタッフが連携して患者さんの不安を軽減するよう努力していきたい」と語ってくださいました。