クローズup PDホスピタル
腹膜透析の情報誌「スマイル」
熊本県 社会福祉法人 恩賜財団 済生会熊本病院
記事の内容、執筆者の所属等は発行当時のままです。
患者さんが主体となって治療を選択するために
同院では、CKD患者さんの透析導入を少しでも遅らせることを目的に「じんぞう教室」を10数年前から開催しています。医師、看護師、管理栄養士、薬剤師、MSW(医療ソーシャルワーカー)のチームで、患者さんとそのご家族に対し、腎臓やCKDについての基礎知識、食事(栄養)、日常生活、服薬に関する注意に加え、早い時期から腎代替療法の概要についても説明するなど、緊急導入を減らすことにも力を入れています。
透析が必要となる患者さんには、「医学的な側面だけでなく、社会的、看護的、家族的背景も含め、患者さんが主体となって治療を選択することが必要と考え、『療法選択外来』を設け、看護師による透析療法の説明を行っています」と、腎臓科医長の井上浩伸先生は話します。そこで活用されているのが「透析療法選択シート」。患者さんが自分に合った方法を選択できるよう、様々な工夫がされています。
例えば、「『不安なことはありますか?』と聞いても、患者さんはうまく話せません。このシートではよく挙げられる不安をリスト化し、アンケート方式で尋ねて話していくことで、不安を具体化できるよう導きます。患者さんが現状を受け入れ、病と共に歩んでいくことを支援する場と考えています」と、血液浄化室の茂田由美看護師。また、治療場面の見学やデモンストレーションの実施を定めるなど、標準化されたシートを使用することは、説明者による内容や質のばらつきをなくすことにもつながっています。
急性期病院であり、「透析導入の内、約4分の3は緊急導入で、元々当院にかかっていない方も数多くおられます」と血液浄化室の菅原園子看護師長が話す同院では、緊急でHDを導入した方にも、後日、同じシートを使用して治療の選択肢を説明しています。「急なことで混乱し、PDを知らない状態で来られますが、入院中に落ち着いた状態でお話をすると、PDを考えたいという方も多いですね」と、腎・泌尿器センター病棟の岩永友紀看護師は話します。
PDライフを楽しんでいただくために、万全なサポートを提供
透析導入時は、生命予後の観点から、残腎機能を活かすことができるPDを勧めるのが基本方針という同院。
腎臓科部長の副島一晃先生は「PDは穿刺の必要がなく、身体的負担も少ないことが特長です。残腎機能を保つことができる導入期に、PDについてきちんと説明し、提供できる体制を整えるのが当然だと考えています」と話します。また、「住み慣れた環境で、自分の生活に合わせて治療ができる点が患者さんにとって最大のメリット」(岩永看護師)、「高齢患者さんの娘さんからの『自宅で自分らしい生活を送ることができるPDを選択したことは、"親孝行"だったと思います』という言葉が忘れられません」(茂田看護師)と、QOLの観点からもPDに積極的に取り組み、在宅での治療をサポートしています。
「熊本県においても高齢化が進んでいます。『自己決定』『自己資源の活用』『継続性』を維持することが大切と言われる高齢者にとって、PDは主体的に治療に参加し、これまでの自宅での生活を継続できますので、高齢者が自立的な生活を長く継続する上で、有益な治療法であると考えます」と語る井上先生は、さらなる病診連携、訪問看護の活用などの深化を課題として挙げています。
「我々は、ベストと思う医療を患者さんに寄りそって提供していきます」(副島先生)、「療法選択期の不安な患者さんにとって、先輩患者さんの話はとても力強いもの。患者さん同士がふれあう機会も重要と考えています」(井上先生)、「訪問看護などの在宅サービスについて知っていただき、ご活用いただきたいですね」(菅原看護師長)、「医師、看護師をはじめ、訪問看護師などみんなでサポートします。トラブルやご相談に対して24時間対応できる体制を整えています」(岩永看護師)、「患者さんがより良いPDライフを続けられるように、我々医療スタッフがチーム一丸となって支援していきたいです」(茂田看護師)と、皆さんの言葉に、医療を通じて患者さんに貢献するという温かい思いが満ちていました。
最後に、「熊本地震の際は全国の医療施設から物心両面の多くの支援をいただき、本当にありがとうございました。誌面をお借りし御礼申し上げます」と副島一晃先生よりコメントをいただきました。